伊叙情派ジャズ巨匠、エンリコ・ピエラヌンツィ新譜がただただ素晴らしい

Enrico Pieranunzi - Common View

ヨーロッパ最高の叙情派ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ新譜

エンリコ・ピエラヌンツィはなんと美しい音楽を創るピアニストなんだろう…。彼の音に触れるたびに、心からそう思う。ビバップな演奏もあるが、私が個人的に好きなのは彼が演奏するバラードだ。ビル・エヴァンスをも超える詩情は、このイタリアのベテラン・ピアニストの右に出る者はいないとさえ思っている。

そんな最も尊敬するピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)の2020年の最新作『Common View』はベースのイェスパー・サムセン(Jasper Somsen)、ドラムスのホルヘ・ロッシ(Jorge Rossy)とのトリオによるアルバムだった。全曲がトリオのメンバーによるオリジナル曲で構成されており、比類なき欧州ジャズの最高峰の演奏を堪能できる快演が続く。

(10)「Recuerdo」のライヴ演奏。
作曲クレジットはトリオの3人。

このアルバムになぜこれほど惹かれるのか、それは理論的な分析をしていないので正直言って今の自分ではよく分からない。万人向けのキャッチーなメロディーも、少なくともこのアルバムにはない。
それでも、不協和音さえも美しく響かせるピアノの音、リズムが持つ独特の“間”、メンバー三人の完璧な相互作用と一体感、複雑に構成された楽曲自体の魅力といった言葉では言い表すことが難しい要素──音楽とは本来そういうものだと思う──、そしてさらには録音やミックスの素晴らしさといった裏方の影の活躍が、この真摯な音楽からは感じ取れるのだ。

ひとことで言えば、最高にお酒が進む音楽…かな。

本作での個人的なおすすめは(2)「Silk Threads」、(5)「Love Waiting Endlessly」、(10)「Recuerdo」、そしてラスト(11)「Song for an August Evening」といったスローバラード。もう、深夜に聴くと勝手に涙が出てくる類の音楽です、これは。特にラストの曲は私が好きなピエラヌンツィを総括するような感動的な曲だった。

私が愛するエンリコ・ピエラヌンツィの曲TOP3

ついでに、私がエンリコ・ピエラヌンツィ沼にはまるきっかけとなった楽曲TOP3を紹介しておきたいと思う。
(過去に別媒体でも書いた記憶があるけど…)

1位 : No Man’s Land

マーク・ジョンソン(Marc Johnson, b)、スティーヴ・ホートン(Steve Houghton, ds)とのトリオで録音された永遠の名盤『No Man’s Land』(1989年)タイトル曲。
心身におそるべき癒し効果をもたらす美しすぎる名曲。
楽曲も美しいが、各人のアドリブがこの上なく極上だ。

ベースソロからピアノソロに切り替わる場面のフレーズ…これ以上に甘く切ないアドリブ、この地上にある?

2位 : Seaward

畳み掛けるような短調での転調を繰り返す圧巻の楽曲。
1994年の作品『Seaward』の冒頭にトリオでの演奏が収録されている。
1998年にはアルバム『Un’alba Dipinta Sui Muri』でソロピアノによる再演も。

1994年『Seaward』のタイトル曲。
この動画ではオーケストラ編成だが、アルバムでのトリオ編成が至高。

3位 : Thiaki

タイトルの「Thiaki」は、チアキと読む。ギリシャの美しい島、イタキ島の古代名とのこと。
アルバム『The Chant of Time』や『Trasnoche』に収録されている短調の儚く美しい曲。
残念ながらYouTubeにはアップされていなかったが、各種ストリーミングサービスを利用している方はぜひこの美しい楽曲を聴いていただきたい。

Enrico Pieranunzi – piano
Jasper Somsen – double Bass
Jorge Rossy – drums

Enrico Pieranunzi - Common View
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