【特集】ストリーミングで聴く『澤野工房』

Klaus Weiss Trio - Greensleeves

澤野工房の想い出

澤野工房という、インディーズのジャズレーベルをご存知だろうか。

澤野工房は大阪は通天閣のお膝元に構える老舗履物屋「さわの履物店」の4代目である澤野由明氏が設立したジャズレーベルで、1980年に弟の稔氏がフランスに移住したことをきっかけに、レコードの輸入をメインとした「澤野商会」を設立。1998年にフランスのSketchレーベルとの共同作業でCD制作に着手し、そのハズレなしの素晴らしいラインナップで2000年前後の大手CD屋の一角には澤野工房コーナーができるほどの大成功を収めたレーベルである。

彼らの姿勢は良い意味で愚直そのもので、モットーは「聴いて心地よかったらええやんか」。有名無名にとらわれず、主観でその音楽の価値をはかり、数々の“心地いい”音楽を次々に日本に紹介してくれた。彼らはビジネスとしてもその見せ方が上手かったが、ビジネス以前に音楽への強い思いがあり、それに周囲が共感し協力したのだろうと思う。

ちょうど2000年前後、学生時代にジャズの面白さに目覚めた私にとっても、澤野工房は最も気になるレーベルのひとつだった。最初に買った作品はジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)の『Avanti!』だった。CD屋の試聴コーナーに鎮座する真っ赤なジャケ、そして尋常ではないブックレットの厚さはビニール越しにも期待を高めるには充分すぎた。
ラーメン屋のアルバイトで稼いだなけなしのお金をレジで払い、四畳半もないと思える学生寮の部屋で、示唆に富むブックレットを眺めながら延々と聴いた。本当にずっと聴いていた。

当時はまだ主流ではなかったデジパックの手触りも気に入り、その後多くの同レーベルの作品を購入し、聴き込んだ。
ジャン=フィリップ・ヴィレ(Jean-Philippe Viret)の『Considerasions』。
ウラジミール・シャフラノフ(Vladimir Shafranov)の『White Nights』
アントニオ・ファラオ(Antonio Farao)の『Borderlines』
ベント・エゲルブラダ(Berndt Egerbladh)の『Mousse au Chocolat』。
山中千尋『Living Without Friday』も大好きだったな。

ストリーミングで聴ける“澤野工房”

自分語りはここまで。

さて、ここ約20年で日本のジャズ市場に大きな影響を与えてきた澤野工房の諸作品は、現時点ではSpotifyやApple Musicといった定額制ストリーミング・サービスでは配信されていない。
これは澤野ファンの多くにとって周知の事実である。
2018年に発売された書籍『澤野工房物語』でも、ストリーミング配信は行わないというのがポリシーだと名言されている。

が、実は膨大なコレクションのうち、ライセンス契約でリリースされた作品は実はそのオリジナル盤がストリーミング配信されているようだ。
澤野工房の公式ツイッターアカウントが教えてくれた。

いや、これだけストリーミング配信されていれば澤野工房の選球眼(選盤眼?)や魅力を知ってもらうには充分でしょう…!

というわけで、このリストの中から、澤野ジャズの素晴らしさを体感いただけるおすすめの作品をいくつ選んでみた。
なお、これらの作品は澤野工房がライセンスを取得しCD化したものなので、オリジナルと澤野版でジャケットが違うものも多いし、ストリーミングで聴いても残念ながら澤野工房の収益にはならない(…んだよね?)。
まぁ、気に入ったものがあればぜひライナーノーツも素敵な澤野版CDを手にとってください。完売も多いようだけど。

① Klaus Weiss Trio – Greensleeves

クラウス・ヴァイス・トリオ(Klaus Weiss Trio)が1966年にリリースした『Greensleeves』は、間違いなく初期の澤野工房発の名作のひとつだ。ドラマーのクラウス・ヴァイスが率いるトリオで、(1)「Gleensleeves」、(6)「Dona Dona」、(9)「Autumn Leaves」など馴染み深い曲もたっぷりと楽しめる。

② Joki Freund Sextet – Yogi Jazz

奇抜なジャケットが悪夢に出てきそうなヨキ・フロイント・セクステット(Joki Freund Sextet)の大傑作『Yogi Jazz』。コントラバス奏者を二人も抱えたセクステットは、ジャケットにも勝るとも劣らない未知の音を奏でる。個人的にも大好きな復刻盤だった。

③ Myriam Alter – Reminiscence

ベルギーの女性作曲家/ピアニストのミリアム・アルター(Myriam Alter)のクインテットの1994年の作品『Reminiscence』。とてもロマンティックで甘く、大好きだった。今聴き返してもこの甘さにとろけそう。本当に素晴らしい。

④ Giovanni Miravassi – Prima o Poi

前述の澤野工房がツイートしたリストには載っていないが、品番AS053のジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)の『Prima o Poi』もストリーミング配信されている。ジャケットや曲順が澤野版とは異なるが、後にジブリ音楽集や日本のアニメ曲集などもリリースしたほどのアニメオタクであるミラバッシ、ここでは久石譲の(5)「Howl’s Moving Castle(ハウルの動く城)」を演奏している。他にもミラバッシのオリジナル曲の美しさが際立つ。エグベルト・ジスモンチの(10)「Loro」のカヴァーもかっこいい。

⑤ Joe Chindamo – Anyone Who Had a Heart

オーストラリアのピアニスト、ジョー・チンダモ(Joe Chindamo)は初期の澤野工房の看板アーティストのひとりで、このバート・バカラック曲集『Anyone Who Had a Heart』を含む5枚ほどの作品が澤野工房からリリースされている。

⑥ Marc Copland – Gary

2020年9月、ゲイリー・ピーコックという偉大なベーシスト逝去のニュースは大きく報じられ、世界中のジャズファンに大きな悲しみを与えた。
米国のマーク・コープランド(Marc Copland)もゲイリー・ピーコックと縁の深かったジャズピアニスト(プロとしてはサックス奏者としてデビュー、後にピアノに転向)。ソロピアノ作品としてリリースされたこの『Gary』はその名のとおりコンポーザーとしても優れた楽曲を多く遺したゲイリー・ピーコック集。

⑦ Georges Arvanitas Trio – 3 A.M. + Cocktail for Free

フランス出身のピアニスト、ジョルジュ・アルヴァニタス(Georges Arvanitas)の1956年作『3 A.M.』と、1959年作『Cocktail for Free』は澤野工房初期の復刻作品の中でも特に推されていた作品。ストリーミングではこの名作2枚がひとつになったリマスター盤『3 A.M. + Cocktail for Free』を聴くことができる。

澤野工房のストリーミング解禁はあるか?

ちなみに現在は澤野工房もストリーミング配信の解禁を検討しているようで、ファンの間でも賛否両論が巻き起こっている。

澤野工房の作品は丁寧につくられたパッケージが素敵で、本当はフィジカルで入手したいものばかりだが、CDは廃盤になるというリスクもあり過去の作品の入手が困難な場合も多い。
ファンのひとりとしては、ぜひ時代にあわせてストリーミング配信という選択肢も前向きに検討いただき、多くの人が澤野ジャズに気軽に触れられるようになると嬉しいなとここ数年ずーーーっと思い続けている。


Klaus Weiss Trio - Greensleeves
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