マリーザ・モンチにマリア・ベターニア、ネイ様にサー様 … & more! MPB史上でもなかなかない程にとんでもない豪華なVo陣を迎えたマルセロ・コスタの新作『Vol.2』

Marcelo Costa Vol.2

「A Barca do Sol」に加入した1974年からブラジル音楽シーンの第一線で活躍し、マリーザ・モンチ、カエターノ・ヴェローゾ、マリア・ベターニア、ガル・コスタ、アドリアーナ・カルカ ニョットからマリア・ガドゥまで、ブラジル音楽のスターを長年に渡って支えてきたドラマー/パーカッショニスト、マルセロ・コスタ(Marcelo Costa)。多くのプロデュース・ワークでも知られる彼が、2019年に発表したソロ・アルバム『Vol.1(Número 1)』は、国内では、インパートメントから国内盤CDもリリースされ話題になった。

 『Vol.1(Número 1)』は、自身のキャリア25周年を祝うため、1999年にリリースするのを計画して録音(1994年から1999年)していた音源が中心だった(例外は、「NA CADÊNCIA DO SAMBA feat. Everson Moraes」で、2017年に録音)。25周年を祝うための録音だったのが、20年後に日の目を浴び、45周年を祝うことになった。『Vol.1(Número 1)』というタイトルを付けた時には、続編のアイデアはもうあったのだろう。カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタ、アドリアーナ・カルカニョット、ボカ・リヴリ、ルル・サントス、トニーニョ・オルタら錚々たるゲストVoを迎えた『Vol.1(Número 1)』の続編となる『Vol.2』にもMPB史上でもなかなかない程に豪華なゲストVo陣を迎えた。今回は、ほぼ全員が女性Voだ。録音時期については、古い録音だという記述が見当たらないので、近年の録音のみではないかと。

 参加した女性歌手たちは、マリア・ベターニア(Maria Bethânia)、マリーザ・モンチ(Marisa Monte)、マルチナーリア(Mart’nália)、ホベルタ・サー(Roberta Sá)、テレーザ・クリスチーナ(Teresa Cristina)、ジュサーラ・シルヴェイラ(Jussara Silveira)、パウラ・モレレンバウム(Paula Morelenbaum)らという面々。この多様な一流の女性歌手の参加に、マルセロ・コスタが、MPBのシーンで45年以上にわたり、どんなにか貢献してきたかを窺い知ることができる。唯一、ゲスト参加した男性歌手は、稀代の表現者、ネイ・マトグロッソ(Ney Matogrosso)。また、マルセロ・コスタ自身も1曲でVoをとっている。

(1)Meu Bom(Marcelo Costa & Maria Bethânia)

 アルバムの幕開けとなるのは、24秒の詩の朗読。マルセロ・コスタが1987年に作った楽曲「Meu bom」の歌詞を朗読する。マリア・ベターニアが朗読し、マルセロ・コスタは、ベリンバウを演奏する。『Vol.1(Número 1)』の冒頭では、マリア・ベターニアの兄、カエターノ・ヴェローゾが「Meu bom」を歌っていた。

(2)Odete | feat. Muri Costa(Marcelo Costa)

 マルセロ・コスタがアルバムで唯一Voをとるのは、Herivelto Martins と Valdemar de Abreu の1944年の作品「Odete」。サンバ。ゲストのムリ・コスタ(Muri Costa)は、マルセロ・コスタの実の兄弟で、マルセロと同じく伝説的バンド「A Barca do Sol」で活躍したドラマー/パーカッショニストだ。

(3)Tão Só |feat. Dadi Carvalho(Marcelo Costa & Marisa Monte)

 マリーザ・モンチがそのエレガントな美しい声で録音したのは、ドリヴァル・カイミ(Dorival Caymmi) と Carlos Guinle による1953年のサンバ・カンソン「Tão só」。ドリヴァル・カイミ(1914年~2008年)の遺した曲の中では、あまり知られていない楽曲だ。

(4)Deixei Recado(Marcelo Costa & Roberta Sá)

 ホベルタ・サー(Roberta Sá)が、コンテンポラリー・ボッサのアレンジで取り上げるのは「Deixei recado」。ジョアン・ドナート(João Donato)と ジルベルト・ジル(Gilberto Gil) による1975年の作品だ。ベースにアルベルト・コンチネンチーノ(Alberto Continentino)、ギターにペドロ・サー(Pedro Sá)、ピアノとトランペットにダニーロ・アンドラーヂ(Danilo Andrade)を迎えた「+2」の系譜が好きな層にはたまらない万全の布陣で臨む。

(5)Mulher Sem Razão(Marcelo Costa & Ney Matogrosso)

 唯一の女性ではないゲストVo のネイ・マトグロッソ(Ney Matogrosso)が取り上げるのは「Mulher sem razão」。べべウ・ジルベルト(Bebel Gilberto)、カズーザ(Cazuza)、デ・パウメイラ(Dé Palmeira)という、「Mais feliz (1986)」、「Preciso dizer que te amo (1986)」といったヒット曲を生んだユニットによるこの曲には、ちょっとした物語がある。ベベウとデの恋人関係が終わってから、カズーザが歌詞をべべウにプレゼントした。ガル・コスタに提供しようとしたが録音されず、べべウ自身が1986年にリリースしようと進めていたアルバム用に録音したが、企画は縮小して5曲入りEPとなり、「Mulher sem razão 」は収録されなかった。

 結局、「Mulher sem razão」は、カズーザ自身の1989年のアルバム『Burguesia』で、カズーザの歌声で発表された。しかし、それほど注目されることはなく、この曲が時を経て注目されたのは、アドリアーナ・カルカニョット(Adriana Calcanhotto)が2008年の傑作アルバム『Maré』で録音したからだった。

 アドリアーナ・カルカニョットの Ver の成功に続いて、翌年、ネイ・マトグロッソがアルバム『Beijo bandido』(2009年)で取り上げた。同ライヴ・アルバムでも録音したので、ネイ・マトグロッソが「Mulher sem razão」の録音を残すのは今回で3回目となる。伸びやかな歌声で披露している。

(6)Se Você Disser Que Sim(Marcelo Costa & Mariana de Moraes)

 ここで登場するのは、先日発売された祖父ヴィニシウス・ヂ・モライスに捧げた最新アルバム『Vinicius de Mariana』が話題の マリアーナ・ヂ・モライス(Mariana de Moraes)。「Se Você Disser Que Sim」は、詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスとマエストロ、モアシール・サントスが共作したサンバ。1963年に、エリゼッチ・カルドーゾ(Elizeth Cardoso)の歌声でリリースされた。

(7)Psiquiatra|feat. Dirceu Leite(Marcelo Costa & Mart’nalia)

 サンバ歌手/シンガーソングライターのマルチナーリア(Mart’nália)が取り上げたのは、ゼー・ケチ(Zé Keti)とエルトン・メデイロス(Elton Medeiros)による1967年のサンバの小品「Psiquiatra」。他の収録曲に比べてあまり知られていない楽曲を、軽快に歌う。

(8)Número Um|feat. Jorge Helder & Pedro Mibielli(Marcelo Costa & Maria Bethânia)

 ここで再度、冒頭で歌詞の朗読を披露したマリア・ベターニア。歌うのはオルランド・シルヴァ(1915~1978)がヒットさせたワルツ「Número um」。Benedito Lacerda と Mário Lago の1939年の作品。ギタリストのペドロ・ミビエリ(Pedro Mibielli)がオーケストレーションしたストリングスの上で、歌詞に込められた失望や傷心を、満身の表現力で歌い上げる。

(9)Nervos De Aço|feat. Sacha Amback(Marcelo Costa & Jussara Silveira)

 前曲が雰囲気をガラッと変えて現代的な表現で仕上げたルピシーニオ・ホドリゲス(Lupicínio Rodrigues)の1947年の名曲「Nervos de aço」を歌うのは、バイーア出身の硬派な実力派、ジュサーラ・シルヴェイラ(Jussara Silveira)。サシャ・アンバッキ(Sacha Amback)のピアノの電子的な響きと、ジュサーラの結晶のような歌声が響き合う。

(10)Você Me Abandonou|feat. Mauro Diniz(Marcelo Costa & Teresa Cristina)

 傷心への復讐を歌う Alberto Lonato の1996作「Você me abandonou」を、サンバ仲間たちと歌うのはテレーザ・クリスチーナ(Teresa Cristina)。カヴァキーニョにマウロ・ヂニス(Mauro Diniz)、コーラスで、アンドレア・ドゥアルチ(Andrea Dutra)、カカラ・カルヴァーリョ(Cacala Carvalho)、エリーザ・ケイロス(Elisa Queiroz)が参加している。

(11)Esse Cara|feat. Guto Wirtti & Chico Adnet(Marcelo Costa & Paula Morelenbaum)

 アルバムの最後を締めるカエターノ・ヴェローゾの1972年作「Esse cara」で澄んだ歌声を披露するのは、パウラ・モレレンバム(Paula Morelenbaum)。ウッドベースはグト・ヴィルチ(Guto Wirtti)、後半の印象的なトランペットは、ジェセー・サドッキ(Jessé Sadoc)。上品な録音に耳を澄ませていると、1分40秒があっという間消えてなくなってしまう。

前作はこちら↓

Marcelo Costa Vol.2
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