超絶技巧とユニークな表現力で魅せる”Trio Grande 2.0″。ジャズロック、進化のその先へ

Will Vinson, Gilad Hekselman & Nate Wood - Trio Grande: Urban Myth

ウィル・ヴィンソン×ギラッド・ヘクセルマン×ネイト・ウッド=!?

2020年にイギリス出身のサックス/キーボード奏者ウィル・ヴィンソン(Will Vinson)、イスラエル出身のギター奏者ギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)、そしてメキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)の3人が「Trio Grande」名義でリリースしたアルバム『Trio Grande』は、卓越した技術と個性を持つ現代最高峰のミュージシャンによる新たな化学反応が絶賛されたとてつもない作品だった。その後世界的なパンデミックがあり、このスーパートリオによる演奏がオーディエンスの前で披露される機会はついぞ訪れなかったが、Trio Grande は少しだけ形を変えてver. 2.0 となり再びその姿を現してくれた!

2023年11月3日にリリースされた『Trio Grande: Urban Myth』は、ウィル・ヴィンソンとギラッド・ヘクセルマンはそのままに、USのドラマー/ベーシスト、ネイト・ウッド(Nate Wood)がアントニオ・サンチェスに代わり参加。この編成では2022年秋から公演を行なっており、セッションを通じて楽曲も充分に熟した状態でスタジオ録音に臨んだようだ。

ロックが持つ激しいリズムと力強い音色のエネルギーが、ジャズの知性と技巧、情熱に同居することで生み出される凄まじい破壊力。トリオ・グランデはたった3人でそれを体現する。ウィル・ヴィンソンはアルトサックスとシンセサイザーなど鍵盤を持ち替え、ギラッド・ヘクセルマンはエレクトリックとアコースティックのギターを用い、エフェクターも駆使し多彩な音空間を作る。そしてなんと言っても新加入のネイト・ウッド。“天才的なマルチ・プレイヤー”と讃えられる彼は、なんとドラムスとベースを同時に演奏しグルーヴを生み出す。どうしてそんなことが出来るのかという出音と、やはり見た目にも大道芸と見紛うビジュアルはインパクトも大きく、トリオの大きな武器となっている(いくらドラムスとベースが両方激ウマだからって、普通は曲によっての楽器持ち替えでやると思うよね…)。

“Trio Grande 2.0” のライヴ演奏

どうしてもそうしたインパクトの強い要素に目を奪われがちだが、現代のジャズマンらしく彼らの音楽自体だって相当に凝っており、さりげない変拍子や転調の多用が楽曲と演奏に豊かな奥行きを与えている。

今作の多くはウィル・ヴィンソンまたはギラッド・ヘクセルマンのオリジナルだが、カヴァーが2曲収録されている。ひとつめは(4)「Strasbourg St. Denis」で作曲はロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove, 1969 – 2018)。近年のジャズや近隣ジャンルにおける革新者だったこの伝説的トランペッターが没したことを未だに信じることはできないが、R&Bのグルーヴが斬新な原曲をリスペクトしつつ独創的なアレンジが加えられたこの演奏は、彼らが敬愛するロイ・ハーグローヴへの鎮魂歌として受け止めた。

もうひとつのカヴァー、(6)「Dancing Girls」はイギリスのシンガーソングライター、ニック・カーショウ(Nik Kershaw)の1984年のヒット曲。ここでは時代を感じさせるディスコ風の四つ打ちでアレンジされておりシンセブラスのオブリガートも古臭いが、彼らの演奏は実に楽しそうだ。

Will Vinson – saxophone, wurlitzer, synthesizer
Gilad Hekselman – guitars
Nate Wood – drums, bass

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