バリトンサックス、ベース、パーカッションの魅惑の地中海ジャズ・トリオ、Ava Trio

Ava Trio - Digging the Sand

バリサク、ベース、パーカッションの魅惑の地中海ジャズ

トルコ出身のベーシスト、エサット・エキンジョール(Esat Ekincioğlu)とイタリア出身のサックス奏者ジュゼッペ・ドロンゾ(Giuseppe Doronzo)、そしてスイス出身のパーカッション奏者ピノ・バシーレ(Pino Basile)によるアヴァン地中海ジャズ・トリオ、Ava Trio。ジャズのフォーマットに則りながら南欧、中東、北アフリカをぐるっと一周するような新鮮な音楽体験は唯一無二だ。

2015年にオランダのフローニンゲンで結成されたトリオは、2017年に『Music from an Imaginary Land』でデビュー。2019年に2nd『Digging the Sand』を、そして2023年に2曲入り(だが20分以上におよぶ)EP『Ash』をリリースしており、そのサウンドは進化の一途を辿っている。

今回深掘りし紹介するのは私が彼らの音楽に最初に触れ、感銘を受けた2ndアルバム『Digging the Sand』だ。まず(1)「Cala dei turchi」にやられた。ジュゼッペ・ドロンゾが吹くのはサックスはサックスでも、ジャズではあまり単独でフロントに立つことのないバリトンサックス。その深みのある音色で奏でるアラビックなスケール、そしてピノ・バシーレによる繊細なフレームドラム。エサット・エキンジョールのダブルベースも低音で歌うような豊かなベースラインを奏でる。音の重心は低いが、高音側には豊かな倍音成分が広がりアンサンブルとして成立させる。

(2)「Espero」ではジングル付きのタンブレッロ(タンバリン)が作る音響空間が魅力的だ。聴き慣れない言語(=スケール)で、3人が繰り広げる饒舌な音の会話が楽しすぎる。

オランダの名物ライヴハウス、ビムハウス・アムステルダム(Bimhuis Amsterdam)での(2)「Espero」の演奏。

実験音楽的な(3)「Fadiouth」や(4)「Digging the Sand」も面白い。後者はコントラバスのブリッジ近くの弦に異物を挟んだ“プリペアド・ベース”と、ピノ・バシーレがフリクション・ドラム(擦り太鼓=ブラジルのクイーカのような、太鼓の皮に取り付けられた棒を擦って音を出す楽器)の一種である創作楽器「cupaphon」を操り、その上でバリトン・サックスが思索的なソロを繰り広げる。

プリペアド・ベースとフリクション・ドラムによる実験的な表現を試みる(4)「Digging the Sand」

(5)「Tosun Kacti」と(6)「Ayi Havasi」はコントラバス奏者エサット・エキンジョールによる作曲(他の6曲はバリトンサックスのジュゼッペ・ドロンゾ作曲)。いずれもベースとパーカッションが作るグルーヴが強い推進力を生む即興主体のアンサンブルとなっている。

珍しい編成でいながら、卓越した演奏力は圧倒的にスリリング。斬新な表現者が集うオランダを拠点に精力的に活動するAva Trioは、まさに今もっとも注目すべき魅惑のジャズ・トリオといえる。

Ava Trio :
Giuseppe Doronzo – baritone saxophone, mizmar (8)
Esat Ekincioğlu – double bass, prepared double bass (4)
Pino Basile – percussions, cupaphon (4)

Ava Trio - Digging the Sand
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