ムガームジャズの女王アジザ・ムスタファ・ザデ、13年ぶり新譜

Aziza Mustafa Zadeh - Generations

アジザ・ムスタファ・ザデ、13年ぶり新譜『Generations』

“ジャジーザ(Jazziza)”や“ジャズのプリンセス(Princess of Jazz)”の愛称で親しまれ、欧州で絶大な人気を誇る作曲家/ピアニスト/歌手のアジザ・ムスタファ・ザデ(Aziza Mustafa-Zadeh)が、なんと2007年作『Contrasts II』以来、13年ぶりとなる新作をリリースした。

ピアノ、エレクトリックベース、ドラムスのトリオ編成の新譜『Generations』は、近年アゼルバイジャンの若い世代のピアニストたちの台頭によって復興を見せ始めたムガームジャズの魅力を“女王”自らが改めて見せつけた傑作。自身のオリジナルのほか、10〜12曲目は偉大な父ヴァギフ・ムスタファ・ザデ(Vaqif Mustafa-Zadeh)の楽曲をカヴァー。ムガームジャズ入門としても最高の一枚となっている。

(7)「New Baku」の2011年のライヴ演奏。
父ヴァギフもアゼルバイジャンの首都バクーをテーマにした「Night Baku」という曲を書いており、これはおそらくその曲へのアンサーソングだ。
バンドメンバーは本作と同じ。

ムガームジャズの系譜を継ぐ三世代による共作

そして本作が“Generations(世代)”と名付けられていることには重要な意味がある。

前述のようにこのアルバムの後半は父ヴァギフ・ムスタファ・ザデの楽曲で占められているが、前半の4曲はアジザの幼い息子、ラミズ・ハン(Ramiz-Han)によって作曲されたモチーフが元となっているのだ。
2008年頃、当時3歳だったラミズ・ハンが奏でた曲をアジザが書き留め、編曲。この楽曲はイタリアで行われた彼女のコンサートで初めて披露されると、聴衆から拍手喝采を受け、以降トリオのレパートリーには息子の曲が増えていったという。
それから12年の歳月を経てようやくスタジオアルバムとして形になった作品が、本作『Generations』というわけだ。

前半4曲は息子ラミズ・ハンとアジザの共作だが、聴いて頂ければわかるように恐ろしくレベルが高いので、ラミズ・ハンの作曲部分は断片的で、アジザの編曲(クレジットでは作曲者は“Aziza Mustafa Zadeh & Ramiz-Han”となっている)による部分が大きいのだろうとは思う。シンプルな可愛らしいメロディだが凝ったハーモナイズが施されたが印象的な(1)「Mimi」、オリエンタルな高速フレーズが楽しい(3)「Sieben Kreisel」など楽しく聴ける曲ばかり。

7拍子のリズムが気持ちよくドライヴする(5)「Despite All」からはアジザ・ムスタファ・ザデ自身のオリジナル。(7)「New Baku」はYouTubeではすでにライヴ映像が公開されていた楽曲で、ようやくのスタジオ録音が聴けることが嬉しい。
約10分におよぶ(9)「Näje Sevim」は今作中もっともムガーム色が強い楽曲のひとつで、妖しく神秘的なアジザのヴォーカルもとても魅力的だ。

(9)「Näje Sevim」は、今作中もっともムガームジャズ色の強い1曲。

“プリンセス”から“女帝”へ!?

アジザ・ムスタファ・ザデは1969年、アゼルバイジャン・バクー生まれ。父親はジャズとアゼルバイジャンの伝統音楽“ムガーム”を融合した新しい音楽ムガーム・ジャズ(Mugam-Jazz, アゼルバイジャン語:Caz-muğam)の創始者で作曲家/ピアニストのヴァギフ・ムスタファ・ザデ、母親エリザ(Eliza Mustafa-Zadeh)も伝統音楽ムガームの歌手という家庭に育った彼女は幼少時から音楽的な才能を見せ、3歳ですでに父親のステージで歌うなど音楽は生活そのものだった。

父ヴァギフはアジザの10歳の誕生日の直前のコンサート後、心臓発作に見舞われ39歳という短い人生に幕を閉じてしまったが、幸運なことにその遺志は娘アジザに受け継がれた。
1988年、父のムガームジャズのスタイルを引っ提げワシントンD.C.で行われたセロニアス・モンク・ピアノ・コンペティションで3位に輝く。母親とともにドイツに移住したのもこの頃で、それからヨーロッパを拠点に輝かしいキャリアが始まった。

アジザは1991年の自身の名を冠した『Aziza Mustafa Zadeh』でアルバムデビュー。1993年の2nd『Always』はヨーロッパで大ヒット、数々の賞を受賞し、“ジャジーザ”“ジャズのプリンセス”といった愛称が定着するほど人気を博した。
彼女の音楽はシンプルで、ジャズ(現代の自由の音楽)とムガーム(叡智と愛の古の音楽)の融合だ。その新しい波は欧州を席巻し、彼女のCDはデビュー以来1500万枚を超えているそうだ。

前作から13年ぶりの衝撃の新譜は、“プリンセス”から“女帝”へと進化を遂げた彼女と、そしてムガームジャズのこれからを占う意味でもとても重要な作品となるだろう。

Aziza Mustafa-Zadeh – piano, vocal
Ralf Cetto – bass
Simon Zimbardo – drums

現代に受け継がれるムガームジャズの系譜

ムスタファ・ザデ親娘に始まったムガームジャズは、今もっとも熱いジャズのスタイルのひとつだと思う。
ヴァギフが始め、アジザが継承したその斬新な音楽は近年さらに多くのバクーの若い世代のピアニストたちによっても演奏されている。

アヴィシャイ・コーエンのトリオで活躍するエルチン・シリノフ(Elchin Shirinov)やムガームジャズとエレクトロ・ミュージックを融合するイスファー・サラブスキ(Isfar Sarabski)、微分音ピアノで新たな表現を探るエティバー・アサドリ(Etibar Asadli)など、現代のムガームジャズについては別記事で詳しく紹介しているのでぜひ参照いただきたい。

Aziza Mustafa Zadeh - Generations
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