マルチン・ボシレフスキ『Arctic Riff』が思い出させてくれた音楽の記憶

Marcin Wasilewski Trio

Simple Acoustic Trio の記憶

私がジャズを聴き始めた頃に出会った、シンプル・アコースティック・トリオ(Simple Acoustic Trio)なるピアノトリオの『Habanera』(2000年)というアルバムが大好きだった。そのアルバムの1曲目「Habanera Excentrica」はどの角度から聴いても完璧な美しさを湛えた曲で、ヘッドフォンで繰り返し聴いた。ピアノの旋律は深い海底を感じさせるようで、当時はまだ珍しかったデジパック仕様のCDの手触りやジャケットの深い青色とともに深く心に刻まれるアルバムとなった。

たった今、そんなことを思い出したのは、ECMからリリースされた現時点での最新作『Arctic Riff』を聴いたからだ。
演奏者はピアノのマルチン・ボシレフスキ(Marcin Wasilewski)をリーダーとするカルテット。どんな人だろう、と検索してから初めて、彼がシンプル・アコースティック・トリオのリーダーだった人物だと知った。もちろんこのトリオを聴いていた当時だってアルバムのクレジットくらいは眺めていたはずだが、馴染みのないポーランド人の名前など覚えているはずもない。実に20年ぶりの再会。うまく言葉にできない感慨…。

『Habanera』を愛聴しながら、その後のシンプル・アコースティック・トリオやマルチン・ボシレフスキの作品は全く聴いていなかった。20年越しで聴くそのピアノのタッチは当時と全く変わらず、明瞭でありながら限りなく美しい。

『Arctic Riff』のメンバーはピアノのマルチン・ボシレフスキのほか、ベースのスワヴォミル・クルキェヴィチ(Slawomir Kurkiewicz)、そしてドラムスのミハウ・ミシキェヴィチ(Michal Miskiewicz)──彼らはいずれもシンプル・アコースティック・トリオのメンバーだった人物のようだ。シンプル・アコースティック・トリオは2007年にマルチン・ボシレフスキ・トリオ(Marcin Wasilewski Trio)と名前を変えたようだが、ずっと同じメンバーで演り続けてきたという事実も嬉しい。
そして今作には、アメリカ合衆国のベテラン・サックス奏者、ジョー・ロヴァーノ(Joe Lovano)が参加。渋みのある洗練されたテナーサックスを聴かせてくれる。

ECMによるアルバム『Arctic Riff』のティーザー動画。

おそらく、私はマルチン・ボシレフスキというピアニストの名前をまたすぐに忘れてしまうだろう。スワヴォミル・クルキェヴィチというベーシストも、ミハウ・ミシキェヴィチというドラマーも同様に。
次に彼らの音楽に出会うのはまた20年後かもしれないが、私はこの先もずっと彼らの音楽を心のどこかで求めている気がする。

Marcin Wasilewski – piano
Slawomir Kurkiewicz – double bass
Michal Miskiewicz – drums
Joe Lovano – tenor saxophone

Marcin Wasilewski Trio
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