アンドレス・ベエウサエルト&タチアナ・パーハ『Aqui』
世の中には決して埋もれさせてはいけない名盤というものがある。
2007年にリリースされた本作『Aqui』はその筆頭だ。これは隆盛を極める南米音楽の金字塔とも呼べる作品だと思っている。
『Aqui』は、現代ブラジルを代表するヴォーカリストであるタチアナ・パーハ(Tatiana Parra)と、アルゼンチンを代表するバンド、アカ・セカ・トリオ(Aca Seca Trio)の鍵盤奏者としても知られるアンドレス・ベエウサエルト(Andrés Beeuwsaert)が、二人の名義で制作した、美しい声とピアノに永遠に浸っていたくなる名演が収められた傑作だ。
収録楽曲はアンドレス・ベエウサエルト作品のほか、南米を代表する音楽家たち──レア・フレイリ(Léa Freire)、カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)、アンドレ・メマーリ(Andre Mehmari)、ピシンギーニャ(Pixinguinha)、ペドロ・アスナール(Pedro Aznar)、エドゥ・ロボ(Edu Lobo)などなど、ジャンルに囚われず幅広い楽曲が取り上げられ、宝石箱のような輝きを放つ。
一部を除き、本作は声とピアノのみで演じられる。
タチアナ・パーハのナチュラルな歌声と、それにぴったりと寄り添うベエウサエルトのピアノはぴったりと呼吸が合い、二人の間の親密な空気を否応無く窺わせる。
アンドレス・ベエウサエルトは優れたジャズピアニストだが、彼が在籍するアカ・セカ・トリオの音楽を聴いたことがある方にはお馴染みのように、ひとたび口を開けば美しい歌声で観客を魅了するヴォーカリストの側面も併せ持つ。(10)「Cueca de Agua」はタチアナ、そしてベエウサエルトの素晴らしいハーモニーが空間に溶け込む極上の小品だ。
実は私生活でも恋人同士だったというタチアナ・パーハとアンドレス・ベエウサエルト。
その後二人の仲がどうなったかは知らないが、二人が残したこの親密すぎるほどの作品は音楽史に刻まれるべき名盤だろう。