- 2026-07-05
- 2026-07-06
パレスチナ系ヨルダン人シンガー、Zeyne が描く「帰還」の物語。現代アラビアン・ポップの傑作『AWDA』
「AWDA(عودة)」とは、アラビア語で「帰還」を意味する。だが、パレスチナ系ヨルダン人シンガー、ゼイン(Zeyne)のデビュー・アルバム『AWDA』が描く「帰還」は、単に故郷へ戻ることだけではない。自分自身を見失った先で、もう一度「本来の私」を取り戻すこと──その精神的な旅路こそが、この作品の核となっている。
アラブ音楽
「AWDA(عودة)」とは、アラビア語で「帰還」を意味する。だが、パレスチナ系ヨルダン人シンガー、ゼイン(Zeyne)のデビュー・アルバム『AWDA』が描く「帰還」は、単に故郷へ戻ることだけではない。自分自身を見失った先で、もう一度「本来の私」を取り戻すこと──その精神的な旅路こそが、この作品の核となっている。
モロッコ・カサブランカ出身のウード奏者/作曲家アラア・ズイテン(Alaa Zouiten)は、アラブ古典音楽を学び演奏していたが、パコ・デ・ルシアの音楽をきっかけにフラメンコに傾倒したという経歴の音楽家だ。2015年以降、彼はスペインのアンダルシア地方(特にグラナダ)を拠点にフラメンコを学び、ウードでフラメンコを演奏し、さらに自身のルーツであるモロッコの音楽とフラメンコを融合するという独自の表現を磨いてきた。
今回紹介する作品は、パレスチナの古都イェリコ出身で、現在はベルギーを拠点とするクラリネット/ネイ奏者/作曲家アハメド・ハワーシュ(Ahmed Hawwash)のデビュー作『Eternal Homeland』(2025年)。祖国パレスチナへの望郷滲むタイトルが冠せられた本作は、同地の伝統的な旋律にインスパイアされつつ、ジャズの語法も交えた美しくも儚い音楽が繰り広げられる。
現代のマグレブ社会を象徴するシンガーソングライター、スアド・マッシ(Souad Massi) の新作のタイトル『Zagate』は、フランス語で「事態は悪化している」を意味する「ça se gâte」に由来するアルジェリア風スラングだという。この作品は、四半世紀前にアルジェリアからフランスに亡命し、今もなお社会的なテーマを創造力の源とする彼女による、混乱や暴力や人種差別、戦争が絶えない現代社会への鋭利な警告だ。
クルドをルーツにもつオランダのシンガーソングライター、メラル・ポラト(Meral Polat)の2025年作 『Meydan』は、彼女のルーツであるアナトリアとメソポタミアの音楽や、イスラム教の少数派であるアレヴィー派の文化的背景を基調に、トルコのサイケデリック・ロックやクルドのソウル、プロテスト・ブルース、ワールド・フュージョンを融合させた強烈な音楽体験を約束するアルバムだ。
“クレズマー・クラリネットの王者”ことフランスのクラリネット奏者/作曲家ヨム(Yom)が、新作『LE RYTHME DU SILENCE』でヴァイオリン奏者テオ・セカルディ(Théo Ceccaldi)とチェロ奏者ヴァランタン・セカルディ(Valentin Ceccaldi)の兄弟とともに、深い瞑想の中に潜む“静寂のリズム”を紡ぎ出す。
いずれも中東にルーツを持ち、音楽家としてヨーロッパで成功を収めた3人──イラン系フランス人の打楽器奏者ビジャン・チェミラニ(Bijan Chemirani)、アルバニア生まれで戦火を逃れイタリアに来たチェロ奏者レディ・ハサ(Redi Hasa)、そしてレバノン出身でやはり内戦から逃れてフランスに移住したピアニストのラミ・カリフェ(Rami Khalife)──。伝統音楽、ジャズ、クラシック、エレクトロなどそれぞれ専門分野は微妙に違えども、音楽的にも文化的にも重なる部分も多い彼らが初めてトリオを組み、“奇跡的”とすら形容したくなるほどに神秘的で感情を揺さぶられる音楽を生み出した。
カナダ・トロントを拠点に活動する男女デュオ、カズドゥーラ(Kazdoura)のデビュー作『Ghoyoum』。内戦のため祖国を離れたシリア出身の歌手レーン・ハモ(Leen Hamo)と、レバノン出身で移民としてカナダに渡っていたマルチ器楽奏者ジョン・アブー・シャクラ(John Abou Chacra)は、2020年のベイルート港爆発事故後のトロントでの募金活動の中で出会い、強力な相乗効果を証明する音楽作品を作り上げた。
レバノンを代表する歌手、タニア・サレー(Tania Saleh)は母国の様々な状況(彼女はそれを“一連の不幸な出来事”と呼ぶ)から、ついに祖国を離れる選択をし、2022年にフランス・パリに移住した。彼女の最新作『Fragile』は、スーツケースに貼られた“壊れやすい”を表すその言葉の通り、故郷を離れることによる心理的な重荷や、亡命者が抱く根無し草のような感覚をテーマに作られている。
ジャズの文脈から自身のルーツであるトルコ音楽にアプローチする異才ピアニスト/作曲家メフメト・アリ・サンルコル(Mehmet Ali Sanlıkol)による2025年新譜『7 Shades of Melancholia』。トルコの伝統的な旋法であるマカームを演奏するために自身で開発したデジタル微分音キーボード「ルネッサンス17」も用い、民謡や詩、映画に至るまで、トルコ文化に深く根付いたメランコリーにインスピレーションを得た悲しみと美しさを同時に捉えた稀有な音楽体験を与えてくれる作品だ。
ベナン、ベルギー、イタリアとそれぞれ異なるルーツを持つ3人によるマコンド・トリオ(Macondo Trio)。ガブリエル・ガルシア=マルケスが『百年の孤独』で描いた魔法のような町の名前に因むトリオは、ヨルバ語で「喜びを見つけた」という意味を冠する新作『Morayò』で、ジャズやアフリカのリズム、アラブ文化が共生する奥行きのある音楽観を提示している。
ベルギー・ブリュッセルを拠点に活動する多国籍ジャズバンド、アレフ・クインテット(Aleph Quintet)の第2作目『Hiwar』。アルバム名はアラビア語で「対話」を意味し、ジャズと北アフリカ音楽の“対話”を通じて異なる文化的視点や音楽的感性を結びつけようとする彼らの姿勢を強く反映した作品となっている。
チュニジア出身のウード奏者/作曲家アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem)の新譜『After the Last Sky』がリリースされた。ECMの傑作のひとつと称賛された前作『Blue Maqams』以来、実に8年ぶりとなる新作で、彼にとって初めての試みとなるチェロを加えた最大4人の編成でアラブ音楽やジャズ、クラシックを自然に融合させた美しい室内楽を聴かせてくれる作品となっている。
モロッコ出身で現在は米国ニューオーリンズを拠点とするマルチ弦楽器奏者/作曲家マフムード・ショウキ(Mahmoud Chouki)。2024年リリースの『Caravan "From Marrakech To New Orleans"』は、ギターやウードを卓越した技巧で操り、マグレブ(北西アフリカ諸国)の音楽とニューオーリンズで生まれたジャズを融合した独創的な音楽で国際的に称賛される彼の新作だ。