フィンランドのピアニスト、イーロ・ランタラ新作は12の月がテーマ
イーロ・ランタラ(Iiro Rantala)は優れた作曲センス、ピアノのテクニックと表現力、そしてユーモア性を兼ね添えた稀代のジャズ・エンターテイナーだ。
1990〜2000年代に活躍した伝説的バンド、トリオ・トウケアット(Trio Töykeät)でその存在を知ってから、トリオを解散した今も動向を追っているが、近年もオーケストラと共演したり、前衛的ギタリストとヒューマンビートボクサーをフィーチュアしたジャズバンドを結成したりと、やりたい放題の活動を継続している。
そんな彼が2011年の『Lost Heroes』以来、8年ぶりにソロで発表した『My Finnish Calendar』(2019年)はあまりに詩的で美しい大作だった。
※私も最初見間違っていたが、アルバム名の真ん中の単語は“Finish(=終わり)”ではなく、nがひとつ多い“Finnish(=フィンランドの)”なので注意が必要。
収録曲名を見ればわかるように、この作品には1月(January)から12月(December)まで、12の月をテーマにした楽曲が順番に収められている。これは2018年からステージで披露していた、12の月を美しい映像とピアノの演奏で表現するというプロジェクトの集大成である。
内容はイーロ・ランタラらしいユニークな楽曲のオンパレードで、美しいメロディーや和音を響かせたかと思えば彼のトレードマークでもある正確無比な超絶テクのピアノだったり、バロック調クラシックの雰囲気を纏ったり、ピアノの音色も弦の上に布などを乗せることで音色をコントロールするなど、ソロピアノでありながら全く単調にならず、実に変化に富んだ魅力をもつ。いくつかの楽曲ではパーカッションなどピアノ以外の音も聴こえてくる。
各楽曲が明確なテーマを持っているから、想像力も掻き立てられる
本作『My Finnish Calendar』は、前述のように収録された12の楽曲がそれぞれ1月〜12月を表すという明確なテーマを持っている。
イーロ・ランタラによってアーティスティックに表現された各月の音楽を聴きながら、どういう気持ちでこの月を表現したのだろう、とあれこれ考えてみるのも楽しいし、フィンランドの各月のイメージと日本のそれのイメージの違いを想像して楽しむのも面白い。
そうした分かりやすいテーマがある曲だから、私は9歳の娘といくつかの曲について感想を話しながら聴いてみた。自分の誕生日の曲などについて少し話したあと、最後に激しい音律が提示される(12)「December」を聴きながら、私が厳しい吹雪の暗い冬のようだね、と言ったら彼女は「12月はクリスマスのある楽しい月なのに」と返してきた。
そういえば、イーロ・ランタラの出身国フィンランドはサンタクロースの国だ。
子供達にとっては楽しみで楽しみで堪らない、一年の中でももっとも特別な日がある月だ──。
人それぞれ、経験や立場によって物事の見方は変わる。当たり前のことだが、価値観の根底にあるものがその人のあらゆる物事の見方を変える。そのことを決して忘れないようにしようと思った。
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追記:
その後、イーロ・ランタラ本人による全曲コメントつきのバージョンがデジタル配信されていたので聞いてみたら、12月はやはりクリスマスの曲だった。しかも、完全に“大人視点”での…。
イーロ・ランタラのコメントが面白すぎるので、ぜひ下記関連記事も参照して欲しい。