ギリシャ出身の注目のベーシスト、ペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)の新作『Irrationalities』は地中海の香り漂うピアノトリオ作品。タイトルの意味は“不合理”だ。
まずはアルバムのハイライトとなる、ペトロス・クランパニスらしくおそろしく複雑だがおそろしく美しい(4)「Irrationality」がとにかく凄まじい。
アルバムタイトルの持つコンセプトを表現したこの1曲はYouTubeにMV(ミュージック・ヴィデオ)も公開されている。
ペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)は1981年ギリシャ生まれのベーシスト/作曲家/アレンジャー。ニューヨークと故郷ギリシャを行き来しながら活動を行っており、これまでにスナーキー・パピー(Snarky Puppy)、ジャン=ミシェル・ピルク(Jean-Michel Pilc)やギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)、小川慶太、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)、アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)、ジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)らとの共演歴を誇る。
4thアルバムとなる今作ではピアノにエストニア出身のクリスチャン・ランダル(Kristjan Randalu)、ドラムス/パーカッションにポーランド出身のボデク・ヤンケ(Bodek Janke)という布陣で、ヨーロピアンジャズというにはあまりに地中海的異国情緒の漂う素敵なアンサンブルを聴かせてくれる。
高い評価を得た前作『Chroma』はストリングスも交えたラージアンサンブルだったが、今作はピアノトリオで勝負している。全8曲中、6曲が彼のオリジナル曲で構成されており、前作に引き続き類稀な作編曲と演奏を楽しめる。
(1)「Easy Come Easy Go」でいきなりその世界観に惹き込まれる。
ピアノとベースの驚異的なユニゾン、そして空間的なパーカッションで始まるこの楽曲はまさしくオリエンタル・ジャズの魅惑そのものだ。ボデク・ヤンケのパーカッションが残す余韻にも聴き入ってしまう。
ピアノトリオという聴きやすいフォーマットなのも嬉しいところだ。
現代ジャズ的なテクニカルが楽曲から、叙情的で夢のような旋律の(8)「Blame it on My Youth」まで、ペトロス・クランパニスという稀有な才能を知る素晴らしい一枚だと思う。