NYに生きるイスラエル・ジャズメンたちの熱気に満ちた『New York Paradox』
現在のイスラエルジャズ・ブームの先駆者、オメル・アヴィタル(Omer Avital)の新譜『Qantar: New York Paradox』がリリースされた。
今作は2018年にアルバム『Qantar』でお披露目されたレギュラーグループ、カンター(Qantar)での第二弾となっており、前作から引き続きNYで活躍する若手イスラエル人ジャズ奏者たちを従え熱を帯びた即興演奏を繰り広げる。
リーダーのオメル・アヴィタル(b)は大ベテランだが、他のメンバーはいずれも近年NYジャズシーンで注目を集める若手奏者たち。
アサフ・ユリア(Asaf Yuria, ts, ss)、アレキサンダー・レヴィン(Alexander Levin, ts)、エデン・ラディン(Eden Ladin, p)、オフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya, ds)はいずれもイスラエル出身で、ニューヨークのイスラエルジャズシーンの人材の充実ぶりに驚かされると共に、このコミュニティの世代を超えた強い繋がりも感じさせる。
アルバムはフロントの2管がエキゾチックなテーマを激しく吹き上げ、ピアノも打楽器のようにグルーヴする(1)「Shabazi」のイントロだけで傑作であることを確信できる内容だ。オメル・アヴィタルのベースは決して目立つプレイではない──そしてそれは、彼に並ぶもう一人のイスラエルジャズの牽引者、アヴィシャイ・コーエンの自己主張の激しいベース・プレイとは対極的にも聴こえる──が、芯が強く異常に安定しており、まさしく“大船に乗った”ような感覚で共演者のベストプレイを引き出せる演奏だと思う。
イスラエルジャズの先駆者
オメル・アヴィタルはモロッコ人とイエメン人の両親のもと、テルアビブ近郊の都市ギヴァタイムで1971年に生まれた。
11歳からクラシックギター を始め、イスラエルを代表する芸術学校であるテルマ・イェリン国立芸術高等学校でベーシストに転向し、ジャズを学んだ。17歳の頃には既にプロとして活動を始め、イスラエル陸軍オーケストラに1年間在籍した後、1992年にニューヨークに移住。ジャズの本場にイスラエルの音楽文化を持ち込み、ニューヨーク・タイムズ紙やダウンビート誌で特集されるなど独自の音楽性はシーンに大きな影響をもたらした。
2003年から3年間はイスラエルに戻り、クラシック、アラビア音楽理論、イスラエルの伝統音楽、中東の楽器ウードを学んだりもしたが、プロとしての活動はほとんどを米国ニューヨークを拠点に行い、自身のルーツであるイスラエル、イエメン、モロッコといった地域の伝統音楽の要素も取り入れたオリジナル曲を武器に、進化するジャズの中に“イスラエル・ジャズ”という新たなカテゴリまで作ってしまった偉大なベーシストである。
20代の頃からの絆であるアリ・ジャクソン(Ali Jackson, ds)、アーロン・ゴールドバーグ(Aaron Goldberg, p)とのトリオ「Yes! Trio」でも新譜『Groove du Jour』を発表するなど、音楽家としての絶頂期を迎えているオメル・アヴィタル。確立されたそのアイデンティティは、隆盛を極めるイスラエル・ジャズのこれからの行方にも影響を及ぼし続けるだろう。
Qantar :
Omer Avital – bass
Asaf Yuria – tenor sax, soprano sax
Alexander Levin – tenor sax
Eden Ladin – piano
Ofri Nehemya – drums