ブラジルから世界に羽ばたくシコ・ピニェイロ、待望の新譜
ブラジル出身、現在は米国ニューヨークを拠点に活動するジャズギタリスト、シコ・ピニェイロ(Chico Pinheiro)がソロ名義では10年振りとなるアルバム『City of Dreams』をリリースした。
今作はチアゴ・コスタ(Tiago Costa, p)、ブルーノ・ミゴット(Bruno Migotto, b)、エドゥ・ヒベイロ(Edu Ribeiro, ds)との鉄壁のブラジリアン・カルテットを軸に、アメリカ合衆国最高のサックス奏者のひとり、クリス・ポッター(Chris Potter)が絡む編成。いくつかの曲ではシコ・ピニェイロ自身のスキャットも聴かれ、ジャズサンバなどブラジル特有の音楽の影響も随所に垣間見える豊かな演奏が繰り広げられる。
シコ・ピニェイロのギターは相変わらずの凄まじいインパクトで、(1)「City of Dreams」の後半で聴かれるような淀みなく流れ続けるアドリブ・ソロにはただただ圧倒される。
シコのギターだけでなく、ときにフロントに立ちソロをぶちかますクリス・ポッターのサックス演奏も手数の多いシコ・ピニェイロに負けじと熱く、演奏者の興奮が直に伝わってくるようだ。
こうしたいくつもの音が複数の演奏者によって無限にとめどなく繰り出される音楽を聴くと、そのひとつひとつは単に周期的な揺れでしかない“音”がいくつも組み合わさることでこれほどまでに心を動かされる“音楽”に昇華されることに、改めて驚きを覚える。
“ジャズ”の言語で世界にコネクトするシコ・ピニェイロ
シコ・ピニェイロ(本名:Francisco Pinheiro Christino Netto)は1973年、ブラジル・サンパウロ生まれのギタリスト/作曲家。ギターは6歳からはじめ、14歳の頃にはセッションギタリストとして活動を始めている。
ジャズの名門校である米国ボストンのバークリー音楽大学を卒業後すぐにその卓越したギターの演奏技術とブラジル音楽を軸とするセンスで注目され、デビュー作となる『Meia Noite Meio Dia』(2003年)にはルシアナ・アウヴェス(Luciana Alves)、レニーニ(Lenine)、エヂ・モッタ(Ed Motta)、シコ・セーザル(Chico César)、マリア・ヒタ(Maria Rita)といった大物がこぞって参加。その後もコンスタントに作品を発表し、ブラジル、米国、ヨーロッパを中心に称賛されてきた。
ブラジルの音楽家以外にも、これまでにブラッド・メルドー(Brad Mehldau)、デイヴ・グルーシン(Dave Grusin)、ダイアン・リーヴス(Dianne Reeves)、カート・エリング(Kurt Elling)、ボブ・ミンツァー(Bob Mintzer)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ブライアン・ブレイド(Brian Blade)、エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)、アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)と言った現代ジャズにおける世界中のキーマンたちと共演を果たし、着実にそのキャリアを積み重ねている。
私が個人的に大好きなのはブラジルを代表するピアニスト、アンドレ・メマーリ(André Mehmari)とSSW、セルジオ・サントス(Sergio Santos)とのトリオで録音した2012年の『TRIZ』で、これほどまでに豊潤なブラジル音楽×ジャズのアルバムは今もこれを超えるものはないと思っている。
Chico Pinheiro – guitar, vocals
Chris Potter – saxophone
Tiago Costa – piano, keyboards
Bruno Migotto – electric & acoustic bass
Edu Ribeiro – drums