キース・ジャレットの名盤『My Song』
これは現在に至るまで、私の音楽観の原点のようになっているアルバムのひとつ。
キース・ジャレット(Keith Jarrett)が北欧のミュージシャンとのバンド(=ヨーロピアン・カルテット)で1978年に発表した『My Song』という作品。
このアルバムを聴くようになったきっかけは新宿の映画館で観た2001年のドイツ映画『マーサの幸せレシピ』だった。
映画の内容は今となっては全く覚えていないけど、BGMとして演出に使われていた美しい曲が心に深く突き刺さり、エンドロールの表示を確認してCDを買って何度も何度も繰り返しその曲を聴いた。
それが『My Song』の4曲目に収録された「Country」という曲。
キース・ジャレットのオリジナルで、ジャズとは思えないほどシンプルなコード進行を基調としたまさに「カントリー(=田舎)」な素朴で美しい楽曲だ。
なぜこの曲にこれほど心惹かれるのだろう。
この曲の魅力を自分なりに思いつくまま書き出してみると…
- シンプルで美しい、普遍的だけど少し捻りの効いたメロディー
- ポップスでも馴染み深いコード進行を基調としつつも、所々スパイスを効かせられる初心者のアドリブ練習にもってこいな楽曲構成
- テーマの直後にくるパレ・ダニエルソンによる“めっちゃ歌う”ベースソロ、それにぴったりと寄り添うピアノ
- ベースソロに続き、Bメロのコード進行の上で弾かれる情緒の塊のようなキースのピアノソロ
- しつこいくらいに甘い、ピアノの装飾音
- ソロにおけるキース・ジャレットの唸り声がもたらす没入感
- テーマの演奏のみに集中するアドリブなきヤン・ガルバレクの美しすぎるサックスの音色
- 終始主張をし過ぎず、淡々と包み込むような優しいリズムを奏でるヨン・クリステンセンのドラム
- 4 人の呼吸が完璧に一致した、アンサンブル全体の空気感
- その素朴さゆえ、自分でも真似して演奏できそうだという親近感
音楽はありきたり過ぎてもダメ、難し過ぎてもダメ。
なんというか、自分にとって“丁度いい”のがこの「Country」という曲だったのだと思う。
それはこの曲に出会ったタイミングも含めて。
後になって知ったことだけど、この映画の音楽監督はマンフレッド・アイヒャー(Manfred Eicher)、ジャズファンならその名を聞いたことがあるであろうジャズの名門レーベルECMの設立者だった。映画の内容よりも音楽の印象が勝ってしまったのは完全に彼のせいである(感謝)。
Keith Jarrett – piano, percussion
Jan Garbarek – tenor soxophone, soprano saxophone
Palle Danielsson – bass
Jon Christensen – drums