イスラエルジャズの魅力満載!ヨゲフ・シェトリット新譜はアフリカ音楽の要素も

Yogev Shetrit - Serenity

ドラマー/作曲家、Yogev Shetrit 2020年新譜

中東〜北アフリカの異国の旅情を喚起する哀愁を伴った叙情的なメロディーがとても印象的な作品だ。
中東音楽とヒップホップやジャズを融合したバンド、Cooloolooshでも活躍するドラマー/作曲家のヨゲフ・シェトリット(Yogev Shetrit)のソロ2作目『Serenity』は、隆盛極めるイスラエル・ジャズの中でもメロディが歌っており聴きやすく、彼の地の音楽の魅力的な特徴がしっかり出ているお薦めの一枚。

彼の前作『New Path』(2016年)は娘の名を冠した感性豊かで美しい曲「Ayala」で幕を開けたが、やんちゃで快活な印象を受ける今作の1曲目「Eviatar」も息子の名前とのこと。中東特有の音階を用いたピアノのフレーズが楽しい。

今作では若いピアニストが二人、アルバムに貢献している。
ひとりはモシェ・エルマキアス(Moshe Elmakias)という名で、19歳の頃にウンブリア・ジャズフェスティバル、翌年には紅海ジャズフェスティバルにも出演しているという期待の若手。
もうひとりは2020年のデビューアルバム『Songs』があまりに素晴らしい出来で、当サイトの2020年ベストアルバム10選にも選出させていただいたスタヴ・ゴールドベルグ(Stav Goldberg)。
前者はクラシックの確かな基礎が感じられる巧く綺麗にまとまった演奏で、後者はアドリブも含めよりスケール感のある表現の幅の広い演奏という印象で聴き比べも面白い。

ピアノトリオ編成が軸になってはいるが、(3)「Ana Farach Bikum」などではカーヌーンやドイラといった楽器も加わり、多国籍感満載の展開も楽しめる。
(6)「Aba」もハイライトの1曲で、スタヴ・ゴールドベルグの感性豊かなピアノとハレル・シャハル(Harel Shahal)のクラリネットが叙情的な旋律を奏で、ヨゲフのドラムも徐々にエキサイトする展開が素晴らしい。

アルバムはメキシコの当時16歳の少女コンスエロ・ベラスケスによって書かれた名曲(8)「Bésame Mucho」を除く全てがオリジナルだが、この唯一のカヴァー「ベサメ・ムーチョ」もなかなか他にはない中東音楽やアフリカ音楽の要素が入った珍しいアレンジで聴き応え抜群。

(4)「Hopes」

ユニークなHip Hopバンド、Cooloolooshでも活躍

本作の主人公、ドラマーのヨゲフ・シェトリット(Yogev Shetrit)は1978年生まれ。2003年にギター/ヴォーカルのユヴァル・ゲルシュタイン(Yuval Gerstein)らとクールールーシュ(Coolooloosh)をエルサレムで結成。2004年に同バンドにユダヤ系アメリカ人ラッパーのジョエル・コヴィントン(Joel Covington, a.k.a. Rebel Sun)が参加し、中東音楽とJazz/Hip Hop/Funkを融合した独自のスタイルを確立、3枚のアルバムをリリースし人気を博した。クールールーシュは2014年に一度解散したが、2018年に再結成。現在のメンバーには人気トランペッターのセフィ・ジスリング(Sefi Zisling)も在籍している。

2016年に『New Path』でソロデビュー。グナワなどモロッコの伝統音楽やアンダルシアの音楽を現代のジャズ、ユダヤ音楽、地中海音楽と融合させたスタイルが特長で、本作でもその優れた個性を発揮。彼が作曲する楽曲はメロディーも親しみやすいものが多く、ヨーロッパのジャズにも通じるような叙情性も魅力だ。

(3)「Ana Farach Bikum」のドラム演奏

Yogev Shetrit – drums
Moshe Elmakias – piano
Stav Goldberg – piano (5, 6, 9, 10)
Avri Borochov – bass
Meni Welt – bass (5)

Guests :
Mike Karuchi – co-production (3)
Amir Alaev – kanun, doira (3)
Aviva Alaev – violin (3)
Matan Caspi – darbuka (3)
Harel Shahal – clarinet (5, 6)

Yogev Shetrit - Serenity
Follow Música Terra