ホットチョコレートのように甘くほろ苦い、ノア&ギル・ドール 31年目の傑作デュオアルバム

Noa - Afterallogy

イスラエルの歌姫ノア、ギル・ドールとのデュオ新譜

イスラエルを代表する歌手ノア(Noa)と、彼女の長年の音楽のパートナーあるギタリストのギル・ドール(Gil Dor)とのデュオ作品『Afterallogy』は、ジャズのスタンダードや二人のオリジナル曲をギター一本の伴奏で歌い上げた愛情豊かな素晴らしいアルバムだ。

これまでにポップス、イスラエルの歌曲、イタリアの歌曲、クラシックなど幅広い表現を試みてきた稀代のシンガーは今作でも低音から高音まで幅広い音域を自在に操り痺れるほど豊かな歌を披露してくれる。(1)「My Funny Valentine」、(3)「Anything Goes」、(8)「Darn That Dream」、(12)「Every Time We Say Goodbye」といったアメリカのスタンダード曲も、謎めいた歌唱法を聴かせる(4)「Oh, Load」やギル・ドールが妻ネタのために書いた(11)「Waltz for Neta」といったオリジナル曲も、すべてが見事なまでに深く、溜息が出るほど美しい。

2020年はノアとギル・ドールが共に活動を始めて30年の節目となる記念すべき年になるはずだったが、やはり世界中の多数の人々と同じように彼女らもまた自宅待機を余儀なくされた。二人は大掛かりなパーティーを開く代わりにノアの自宅スタジオに二人だけで集い、レコーディングエンジニアさえ招かずに長年温めていたアイディアをギターと歌だけで録音した。30年の共作の月日はお互いを一心同体とし、アルバムの制作には何の障害もなかったようだ。ノアはこの作品を「まるでホットチョコレートのようなアルバム」と語る。大人の甘くほろ苦い、心温まる味わい。

(10)「Eyes of Rain」はノアがまだ20歳の頃、リモン音楽学校の学生として作曲し当時の教授であったギル・ドールに聴かせた思い出深い曲とのことで、今作では彼女の夫に捧げられている。長く成功を収めたノアのキャリアの原点とも言える曲だが、ここでの二人の演奏は30年の歳月を経た円熟味に覆われ、溢れ出る若さを深部に封じ込める。

リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートによって書かれ、多くのジャズシンガーが愛唱してきたスタンダード曲(1)「My Funny Valentine」
ギル・ドール作曲の(4)「Oh, Lord (אלוהי)」はヘブライ語で歌われる。
1’52″からの口トランペット(?)のような間奏も面白い。

イスラエル音楽の発展に貢献してきた二人

歌手のノア(Noa, 本名:Ahinoam Nini, ヘブライ語:אחינועם ניני‎)はイエメン系ユダヤ人の両親のもと、1969年にイスラエルで生まれた。2歳で米国ニューヨークに家族とともに引っ越し、16歳で再びイスラエルに戻っている。兵役後はイスラエル随一の音楽学校であるリモン音楽学校で学び、そこで長年の協力者であり、当時学校の教職員だったギル・ドールと出会った。
1991年にギル・ドールとの共作アルバム『Noa & Gil Dor』でデビュー。ジョニ・ミッチェルやポール・サイモンといった米国のSSWたちや、自身のルーツであるイエメンの音楽、さらにはジャズなどの複合的な要素が魅力となり人気を博した。
1994年には国際家族年の閉会イベントに際しバチカンで「アヴェ・マリア」を歌唱。その模様は全世界に中継され、彼女はバチカンで歌った初めてのイスラエル人となった。
2009年のユーロビジョン・ソングコンテストにはイスラエルを代表し歌手のミラ・アワド(Mira Awad)とともに「There Must Be Another Way」という曲で参加。
2019年作『Letters to Bach』はJ.S.バッハの曲を美しくアレンジし歌っており、クラシックファンにもおすすめだ。

ギタリストのギル・ドール(Gil Dor, ヘブライ語:גיל דור)は1952年にテルアビブ近郊の都市ホロン生まれ。両親は共にアマチュアのピアニストで、ギルも幼少期から音楽教育を受けた。ギターは11歳から独学ではじめ、のちにメナシェ・バキシュ(Menashe Bakish)に師事。兵役後に妻とともに米国に渡りバークリー音楽大学で学び、卒業後は1981年までニューヨークで活動した。
その後イスラエルに戻りギタリストとして活動。1985年にほかのバークリー音楽大学の卒業生らとリモン音楽学校(Rimon School of Jazz and Contemporary Music)を設立。1992年以降、リモン音楽学校はバークリー音楽大学との交換留学制度も提供しており、イスラエル出身の優れた音楽家を多数輩出している。

ノアとギル・ドールは30年以上にわたり音楽の最高のパートナーとして共に活動しているが、私生活ではそれぞれ別のパートナーがおり夫婦ではない。

コール・ポーター作曲(3)「Anything Goes」
Noa - Afterallogy
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