若き伊女性ジャズピアニスト、ネルソン・マンデラの足跡を辿る類稀な傑作

Sade Mangiaracina - Madiba

シャーデー・マンギアラシーナ、“マディバ”を讃える新譜

イタリアのピアニスト、シャーデー・マンギアラシーナ(Sade Mangiaracina)の新譜『Madiba』は、アパルトヘイト撤廃を導いた南アフリカの偉大な指導者ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela, 1918 – 2013)に捧げられている。タイトルの“マディバ”とは、国民から親しまれ呼ばれたマンデラの愛称であり、氏族名だ。

人権のために闘い抜いたマンデラの生き方そのものを悲壮かつ力強く描いた(1)「Madiba」では、中間部のマルコ・バルドスチア(Marco Bardoscia)によるアルコ(弓弾き)のベースソロにマンデラのスピーチが被さる。これは当時アフリカ民族会議(ANC)の指導者だったマンデラが1963年に反逆罪に問われ逮捕され、翌1964年に行われた裁判で死刑を覚悟した彼が法廷で行った3時間のスピーチを締めくくる一節で、20世紀の最も偉大なスピーチのひとつとされている。その内容を引用しよう:

私はアフリカの人々の闘いのためにこの人生を捧げてきました。
私は白人による支配と戦ってきました。
そして私は黒人による支配とも戦ってきました。
私が大切にしてきたのは、民主的で自由な社会で、すべての人々が調和し、平等な機会を得て共に生きるという理想です。
それは私が生きて実現させることを望んでいる理想です。
しかし、主よ、もしもそれが必要であるならば、私はその理想のために死ぬ覚悟ができています。

(1964年4月20日 ネルソン・マンデラのスピーチより)

マンデラはこの裁判の結果終身刑を宣告され、世界的な解放運動の機運の高まりに伴い1990年に釈放されるまで実に27年間におよぶ獄中生活を送った。その後のアパルトヘイトの撤廃、ノーベル平和賞、南アフリカ初の黒人大統領の誕生といった功績が世の中に与えた影響は到底量り知れない。

音楽を通してネルソン・マンデラの人生を語る

シチリア島に生まれた若き女性ピアニスト/作曲家のシャーデー・マンギアラシーナは自ら作曲した8つの音楽を通してマンデラの人生を語る。それはマンデラの勇気や人間性、歴史上の偉業を伝えるだけではなく、今を生きる人々が各個人としての尊厳を守ることについて若い世代に伝えるための最良の手段のひとつのように思える。
それぞれの楽曲には獄中からの手紙、人生を通して持ち続けた夢、獄中の27年間、そして赦しまで、マンデラの長く波乱に満ちた生き様を想像させるには充分なタイトルがつけられている。編成はオーソドックスなジャズのピアノトリオだが、エレクトリックピアノや多重録音も用い、ゲストにチュニジアのウード奏者のジアド・トラベルシ(Ziad Trabelsi)も迎え最大限の敬意をもって強い情熱と痛みに満ちたマンデラの人生を真摯に描き出そうとしている。

この作品はイタリアの才気溢れる若手ピアニストとしてセンセーショナルにシーンに登場してきたシャーデー・マンギアラシーナの新たなターニングポイントになる傑作だ。彼女はこの雄弁な作品をもって、自分自身がシリアスなテーマをダイナミックに表現し、多くの人々の心を打つ作品を創ることのできる真のアーティストであることを証明した。

(1)「Madiba」
中間部ではネルソン・マンデラによる有名なスピーチが挿入されている

シャーデー・マンギアラシーナ 略歴

シャーデー・マンギアラシーナは1986年イタリアのシチリア島生まれ。6歳から18歳までクラシックのピアノを習い、いくつかのコンクールで優勝。高校卒業後はローマに移りジャズを学んだ。2008年に自身のカルテットを率いて『Philosophy』でデビューし、天真爛漫な演奏でイタリアン・ビバップの新たな才能と評された。
これまでに自身のリーダー作のほか、人気歌手のシモーナ・モリナーリ(Simona Molinari)とともに世界中のジャズクラブで演奏するなど活躍の幅を広げてきている。

本作『Madiba』は2021年3月2日にリリースされた。その31年前、1990年3月2日はのちに南アフリカ大統領となるネルソン・マンデラがアフリカ民族会議の副議長に選出された日だった。

Sade Mangaracina – piano
Marco Bardoscia – double bass
Gianluca Brugnan – drums

Guest :
Ziad Trabelsi – oud (5, 6, 8)

Sade Mangiaracina - Madiba
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