異色の経歴のピアニスト、40歳にして初のリーダー作
世界的に活躍する前衛芸術家でありピアニスト/作曲家、マヤ・ドゥニエッツ(Maya Dunietz)の40歳にして初のリーダー作となるEP『Free the Dolphin』がイスラエルの気鋭レーベル Raw Tapes よりリリースされた。
ベースにバラク・モリ(Barak Mori)、ドラムスにアミール・ブレスラー(Amir Bresler)という強力なピアノトリオ編成で、ゲストには人気トランペット奏者のアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)も参加。プロデューサーはレーベルの主宰者リジョイサー(Rejoicer)だ。
マヤ・ドゥニエッツという興味深い経歴を持ったアーティストの詳しい紹介は後ほどとして、音を聴いてみると、西洋クラシック音楽の基礎の上に独自の感性で築き上げたアウトサイダーなジャズという印象を強く受ける。オリエンタルな音階を多用したり、フリーなインプロがあったり、(2)「Shtyner」では突如ラグタイム風のストライド奏法が飛び出したりと自由奔放な演奏が楽しい。
前述のようにイスラエルを代表するジャズミュージシャンが参加しているが、(3)「Lover Man」はビリー・ホリデイの歌唱で知られるスタンダード曲をソロピアノでやったり、(5)「Oddeta」ではアヴィシャイ・コーエン(tr)とのデュオ演奏を聞かせてくれたりと内容も多彩だ。
(6)「The Wine of Love」でスポークンワードを担当しているダヴィッド・ルモワンヌ(David Lemoine)はフランスのオルタナティヴ・ロックバンド、Cheveu のメンバー。彼は以前にマヤ・ドゥニエッツによる前衛アートのプロジェクトに参加していたようで、その縁でのゲスト参加のようだ。
エチオピアからイスラエルに渡った修道女/音楽家のエマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルー(Emahoy Tsegué-Maryam Guèbrou)から多大な影響を受けている(共演歴もあり)という彼女の音楽には独特の響きがあり、捉え所のないような感覚に満ちている。今作でもアコースティックのピアノだけではなくシンセサイザーなども駆使した独自の不思議な世界観をみせており、注目を浴びそうだ。
多方面で活躍する芸術家
マヤ・ドゥニエッツ(Maya Dunietz, ヘブライ語:מאיה דוניץ)は1981年テルアビブ生まれ。幼少時よりピアノやフルートを習い、音楽の才能を育んできた。テルマ・イェリン芸術高校ではピアノを専攻しながら様々なバンドや音楽プロジェクトに参加。中でも16歳のときにベルギーの音楽活動支援団体 Jeunesses Musicales International の支援を受けイスラエル代表としてコートジボワールに訪問、その時に出会ったジンバブエのSSW/ムビラ奏者のチウォニソ・マライレ(Chiwoniso Maraire, 1976 – 2013)とは深い親交を築いた。
1999年に米国に渡りニューヨークのニュースクールに留学。ここではジョン・ゾーン(John Zorn)、ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)など多くのミュージシャンとも共演している。
2005年からはオランダのハーグ王立音楽院で作曲などを学び、実験的な電子音楽の制作にも打ち込みつつ、舞台芸術の演出家兼作曲家としてその才能を開花。様々なバンドでの音楽活動の傍らアート作品の共同展示会に参加し、2010年代半ばからは世界各地で個展も開催するようになり芸術家としての名声を高めている。
Maya Dunietz – piano
Barak Mori – bass
Amir Bresler – drums
Guests :
Avishai Cohen – trumpet (5)
David Lemoine – voice (6)