MS社でのキャリアを断ち音楽の道へ。世界的ジャズピアニストの兄ロイ・モール、デビュー!

Roy Mor - After the Real Thing

ロイ・モール(Roy Mor)、遅咲きのジャズピアニスト

ミュージシャンを夢見る多くの者にとって、音楽だけで生活していくことはとても難しい。

イスラエル・エルサレム出身のロイ・モールRoy Mor, ヘブライ語:רועי מור)は3人の兄弟の中で真っ先に高校でジャズを学んだが、兵役を経てから音楽は一旦脇に置く選択をし、大学で数学やソフトウェア開発を学ぶ道を選び、イスラエルのマイクロソフト社でのエンジニアの職と経済的な安定を得た。

そうしているうちにロイの実弟であるオムリ・モール(Omri Mor)は一足先に世界最高峰のジャズピアニストとして知られるようになっていった。
ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)やベース奏者のアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)のバンドで世界中を飛び回り、フェスや有名クラブで演奏していた弟の存在は彼にとって大きな刺激となっていたことだろう。エンジニアとして働く傍ら、舞台の曲を書いたりビッグバンドのピアニストとして音楽活動や俳優業をしていたロイだが、やがて自分の真の情熱を追求したいと考えるようになる。

そうして彼はエンジニアとしてのキャリアを離れ2012年にニューヨークに渡り、多くの有望なミュージシャンが集うニュースクールであらためてジャズを学び、夜は市内のバーなどで自身のバンドやサイドマンとしてギグをし、同時に多くの人脈も築いた。彼のバイオグラフィではNYでショーを行うようになったのは2015年頃からとなっている。そこからの僅か数年間でジャズピアニストとしての評判は鰻登りとなり、ついにヨーロッパのレーベル、Ubuntu Musicとの契約を勝ち取ったのだ。

アモス・ホフマンも参加したデビュー作『After the Real Thing』

パンデミックの直前にニューヨークで録音され、2021年5月にリリースされたデビューアルバム『After the Real Thing』は、ロイ・モールがこれまでに作り演奏してきた素晴らしい音楽作品の集大成だ。イスラエル・ジャズを牽引してきたウード/ギター奏者、アモス・ホフマン(Amos Hoffman)が半数の曲に参加し作品にエキゾチックなスパイスを振りかける。

全11曲のうち4曲がカヴァーで、残りはオリジナル。
(1)「The Echo Song」はイスラエルの作曲家、ヨアナン・ザライ(Yohanan Zarai)が作曲しその妻リカ・ザライ(Rika Zaraï)が歌った曲のカヴァー。
(8)「Do You Know The Way」もエフライム・シャミール(Efrayim Shamir)という70年代に活躍したイスラエルのSSWの曲で、彼のルーツを示すには最高の素材だ。

ロイ・モールのピアノはイスラエル音楽、北アフリカやアンダルシアの音楽と現代のジャズを融合させ世界中を驚かせた弟オムリのそれにも似たフレーズが出ることもあるが、より抒情的で柔らかさを感じる。意図的に弟とは違う個性を表現しようとしているように感じる部分も多く、ルーツである中東音楽を自然にジャズに溶け込ませた流麗なピアノはとても美しく印象的だ。

オリジナル曲の数々はこれまでに彼が過ごした場所や出会った人々、経験にインスパイアされて書かれたという。
標題曲(2)「After The Real Thing」はニューヨーク的な音楽イメージが強い楽曲で、ジャズの歴史や、その音楽がもたらす楽しげな感情に基づいたほろ酔い気分の即興が繰り広げられる。
一転して(3)「Jerusalem Mezcla」はタイトル通りイスラエル音楽とジャズの折衷で、地中海沿岸の香りが強く漂う。ウードを演奏するアモス・ホフマンの貢献も大きいが、変幻自在に展開する楽曲自体も魅力的だ。

(3)「Jerusalem Mezcla」のMV

今作では若手のミュージシャンも参加しており、彼らの演奏もなかなかに素晴らしい。
ベースのマイルス・スロニカー(Myles Sloniker)はコロラド州出身。ロン・マイルス(Ron Miles)やジェフ・コフィン(Jeff Coffin)、パク・ヒョナ(Hyuna Park)といったNYのシーンで活躍する音楽家と共演を重ねてきた。

ロイ・モール同様にイスラエル出身でNYで活動するドラムスのイタイ・モルヒ(Itay Morchi)も1992年生まれと若く、柔軟なドラミングで幅広いスタイルに対応する。彼はこれまでにジョニー・オニール(Johnny O’neal)やロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)、トゥオモ・ウーシタロ(Tuomo Uusitalo)などなど数々のミュージシャンと共演している。

(1)「The Echo Song」

ステージ、新譜の予定…精力的な活動から目が離せない!

イスラエルを代表するトランペッター、アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)や、若手No.1ギタリストのニツァン・バール(Nitzan Bar)ともステージを共にするなど、ピアニストとして大きく前進するロイ・モール。現在はエチオピアにルーツを持つサックス奏者/シンガーのアバテ・ベリフン(Abate Berihun)らとのカルテット“Addis Ken Project”での新譜も予定されているなど、精力的に活動を行っている。

もしかしたら、ギターやベースを演奏するという末弟ガイ・モールも加えたモール三兄弟での演奏(3 Cohens のような…)もいつか観られる時が来るのかもしれない。

Roy Mor – piano, Fender Rhodes
Amos Hoffman – oud (1, 3, 8), guitar (6, 9)
Myles Sloniker – bass (except 2, 5, 7, 11)
Itay Morchi – drums (except 2, 5, 7, 11)
Davy Lazar – flugelhorn (4)
Marty Kenney – bass (2, 7)
Peter Traunmueller – drums (2, 7)
Joel Kruzic – bass (11)
Jeremy Dutton – drums (11)

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