イスラエル出身の新鋭ハーモニカ奏者、アリエル・バルト
近年優れたジャズ・ミュージシャンを多数輩出するイスラエルから、またひとり素晴らしいアーティストが現れた。
彼女の名はアリエル・バルト(Ariel Bart)、1998年生まれのハーモニカ奏者。7歳からハーモニカを始め、イスラエルやニューヨークで学び、2021年5月にアルバム『In Between』で待望のデビューを飾った。
近年のジャズのシーンでは彼女同様にイスラエル出身のヨタム・ベン=オール(Yotam Ben-Or)やロニ・エイタン(Roni Eytan)という若手ハーモニカ奏者が際立った活躍を見せているが、このアリエル・バルトもハーモニカ奏者として重用される存在になっていきそうな予感がある。
アルバム収録の全8曲はすべてアリエル・バルトの作曲で、豊潤で感情を揺さぶる曲を書くことができる作編曲家としての才能を存分に示している。今作ではイスラエルの伝統的な音楽の要素は少ないが、ヨーロッパのジャズのような端正で陰影を帯びた曲調はとても20代前半という若さを感じさせず、落ち着いていて優雅だ。
ハーモニカという楽器の発音原理はフリーリードに空気を送り込みそれを振動させるという点で蛇腹楽器のアコーディオンと似ている。しかしその構造上アコーディオンほど多くの音を同時に出すことはできないし、特にクロマチック・ハーモニカとなると演奏の難易度も高い。それでも人が直接息を吹き込んだり吸い込んだりすることで楽器と一体となり、体を使って音楽を表現することができるという魅力には抗い難い。何よりもあの小さな楽器がこれだけの豊かな表現力を秘めているというのも純粋な驚きだ。アリエル・バルトもそんなハーモニカの表現力に魅せられ、深く深く楽器と音楽を追求してきたのだろうな、と思った。
次代を担う若手奏者を揃えたバンドにも注目
今作のバンドにはイスラエル・ジャズの次代を担う注目のメンバーも揃う。
チェロのマユ・シュヴィロ(Mayu Shviro)はシャイ・マエストロ(Shai Maestro)とのデュオも話題の、近年様々なアーティストのセッションでその姿を見せる日本とイラクにルーツを持つ女性奏者。イスラエルのギタリスト、オフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)との素晴らしい共演で知って以来、個人的に今かなり気になっている演奏家のひとりでもある。
エルサレム出身のピアニストのモシェ・エルマキアス(Moshe Elmakias)は2016年のウンブリア・ジャズフェスティバルや2017年の紅海ジャズフェスティバルなど世界中のフェスに出演する新鋭。アリエル・バルトと同世代の彼はクラシック・ピアノの素養があり、今作での的確で存在感のあるサポートはさすがだ。
ベースのダヴィド・ミハエリ(David Michaeli)は現代のイスラエルを代表するピアノトリオ、シャローシュ(Shalosh)のメンバー。Shaloshについては当サイトでも度々紹介しているが、メンバー個々のサイドマンとしての活動はこれまで知らなかったので、ここでの参加には驚いた。実力は勿論、折り紙付き。
ドラマーのアミール・バール・アキヴァ(Amir Bar Akiva)はタル・ガムリエッリ(Tal Gamlieli)やデイナ・ステファンズ(Dayna Stephens)といった著名ミュージシャンと共演をしてきている。エルサレムとテルアビブの間にある人口200人程度の小さな村ギゾで生まれ育ち、現在は奨学金を得てニューヨークでギグを重ねているようだ。
素晴らしいデビューを果たしたアリエル・バルト。今後の活躍にも期待
アリエル・バルト(ヘブライ語:אריאל ברט)はまだNYのニュースクールを卒業したばかり。渡米前にはエルサレム・オーケストラとも共演をしている。
彼女はトゥーツ・シールマンスやスティーヴィー・ワンダー、それにカレン・マントラーといったハーモニカ奏者に影響を受けつつ、中東、アンダルシア、マグレブなどの音楽も研究し独自の表現を追求する。最近はチュニジアのウード奏者アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem)やトルコの音楽をよく聴いているそうだ。作曲はピアノで行っており、ピアニストでは特にキース・ジャレットが好きだという。
Ariel Bart – harmonica
Mayu Shviro – cello
Moshe Elmakias – piano
David Michaeli – double bass
Amir Bar Akiva – drums