アサフ・アムダースキー、豊富なジャンルをバランスよく吸収した傑作新譜
イスラエルのシンガーソングライター、アサフ・アムダースキー(Assaf Amdursky)の通算8作目となる2021年新譜『432』は、豊富な音楽的経験に裏打ちされた彼自身の進化が伺える、豊かな響きの良質なポップスに仕上がっている。アルバムはこれまでの彼の作品同様に作詞作曲・ヴォーカルのみならずギター、ベース、キーボード、フェンダーローズなど多くの楽器をアサフ自身で録音し、あらためてマルチ奏者としての才能も感じさせる内容だ。
特筆すべきはボサノヴァやサンバといったブラジル音楽からの影響が色濃く表れている点で、パンデイロやタンボリン、クイーカといったサンバ楽器の使用やガットギターでのバチーダが軽やかなリズムを生み出し、ローズピアノを中心としたジャジーなサウンドによく溶け込んでいる。
冒頭(1)「מה שאתה רואה עכשיו」は南米風の軽やかなパーカッション群を伴ったジャジー&グルーヴィーな良曲。落ち着いたアサフ・アムダースキーの声も良い。
とにかくメロディーもリズムもコード進行も心地いい曲が続く。
(5)「רצינו פלא」は特にボサノヴァを意識した楽曲。
日本やフランス、アメリカなどと同様にイスラエルでも70年代から80年代初頭にかけてボサノヴァに影響された楽曲が多く生み出され、ハーモニーなども豊かな進化を見せたが、アサフ・アムダースキーもそうしたところから強い影響を受けているようだ。
そんな中にありながら(7)「הנר שלנו」など彼のパンクロックに始まったキャリア初期の面影を匂わせる部分もあり、その多彩な音楽的背景が今作のアーティスティックで見事なバランスを生んでいるように感じる。
ラストの(8)「משהו שונה בך」はバックで流れる鈴虫たちの鳴き声に情緒を感じさせるフォーキーな曲で、ここにも彼が長いキャリアの中で培ってきた豊かな感性が現れている。
余談だが、秋の虫の鳴き声に情緒を感じるのは日本人に特有の感性だというような言説を時折見かけるが、このような曲を聴くと全くもって井の中の蛙だと思ってしまう。
アサフ・アムダースキー 略歴
アサフ・アムダースキー(ヘブライ語表記:אסף אמדורסקי)は1971年生まれ。3ピースバンドTa’arovet Escotのヴォーカル/ギタリストとしてキャリアを開始し、同バンドのデビューにして唯一のアルバム『Ta’arovet Escot』(1991年)は同時代の米英のヒット曲にも通じるストレートなパンクロックで人気を博した。
バンド解散後1994年に『אסף אמדורסקי』でソロデビュー。すぐにいくつかのヒット曲を飛ばしソロとしても成功する。同作ではギター、ベース、キーボード、パーカッション、ハーモニカ、トランペットを演奏するなどマルチ奏者としても印象づけた。
その後は電子音楽やダンスミュージックも取り入れながら様々な音楽遍歴を辿りつつ良質なポップスを量産。現在まで長く続く人気を保っている。