トーマス・ネイム、Tom&Joyceからは想像もできないジミヘン曲集
2000年前後に大ヒットしたフレンチボッサのデュオ、トム&ジョイス(Tom & Joyce)の名前を聞いて懐かしく感じる人は多いかもしれない。ギターのトムとヴォーカルのジョイスの従兄妹デュオの曲「Vai Minha Tristeza」は世界的にヒットし、ここ日本でも多くのファンを獲得した。
実はこのデュオ、2020年に15年ぶりとなる新作『Voltar』をリリースしており、こちらも洗練されたフレンチボッサの絶品なのだが、今回紹介するのはそれではなく、デュオの片割れ“トム”ことトーマス・ネイム(Thomas Naïm)のソロ作品だ。なんとテーマはエレキギターの神様ジミ・ヘンドリックス。ガットギターではなくエレクトリックギターでジミヘンをカヴァーする彼の音楽は、前述のデュオのおしゃれなサウンドをイメージして聴くと随分意外に感じられる。
アルバムはずばり『Sounds of Jimi』で、ロック史に残るジミヘンの往年の名曲をジャズコンボで即興を軸に演奏している。トム・ナイムの適度に歪んだギブソンのフルアコースティック・ギターには、トム&ジョイスの面影はない。ペンタトニックを中心に構築されるソロや、ベースのマルセロ・ギリアーニ(Marcello Giuliani)とドラムスのラファエル・シャッシン(Raphaël Chassin)の演奏もスモーキーで素晴らしく、ジミが活躍した1960年代を香らせつつ新たなアレンジで蘇らせている。
いくつかの楽曲ではゲストも参加。トランペット奏者エリック・トラファズ(Erik Truffaz)が(11)「Manic Depression」で、レバノン系フランス人のオルガン奏者カミーユ・バズバズ(Camille Bazbaz)が2曲で演奏しているほか、女性シンガーのセリア・カメニ(Célia Kameni)、男性シンガーのヒュー・コルトマン(Hugh Coltman)が歌でジミヘンの真髄を表現する。
ジミ・ヘンドリックスの曲は研究し尽くされていると思うので各収録曲の詳細は割愛するが、ジミヘンやギターが好きな人はぜひ原曲を思う浮かべながら本作を聴いてほしい。ここにあるのはクラブ系ボッサと呼ばれるような洒落た音楽をガットギターで爪弾く人物のもうひとつの側面──ロックという音楽に人生の苦さを見出し、その純粋なかっこよさに憧れたギター少年の姿だ。トム・ナイムというギタリストは、27年間の波乱に満ちた人生を生き死んでいったジミ・ヘンドリックスというもはや伝説上の男の物語の真の語り部のひとりなのだ。
Thomas Naïm 略歴
トーマス・ネイムは最初はロックの影響を受け、12歳でギターを始めた。
その後ブラジル音楽やレゲエなど多くの音楽に興味を持ち、世界的にヒットした前述のトム&ジョイスでの活動、さらにはジャズへの傾倒など遍歴を辿る。
トム&ジョイスでの活動の傍ら、今作にもゲスト参加しているヒュー・コルトマンらの作品へのサイドマンとしての参加や、ブルース、ジャズ、アメリカーナなどに感化された自身のリーダー作『Dust』(2013年)、『Desert Highway』(2018年)などをリリースしている。
Thomas Naïm – guitars
Marcello Giuliani – double bass, electric bass
Raphaël Chassin – drums, percussions
Special Guests :
Célia Kameni – vocals (2)
Hugh Coltman – vocals (3, 8)
Erik Truffaz – trumpet on (11)
Camille Bazbaz – organ (1, 6)
追加シングルもリリース
トーマス・ナイムはその後2021年11月に「Voodoo Child」、「The Wind Cries Mary」、「Cherokee Mist」の3曲を収録した『More Sounds of Jimi』もリリースしている。
おまけ:やっぱりTom & Joyce と同一人物とは信じ難い…
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