故郷を愛する新星サックス奏者Matt Carmichael デビュー作
マット・カーマイケル(Matt Carmichael)は1999年生まれ・若干22歳のサックス奏者/作曲家。2021年に卒業した王立スコットランド音楽院のジャズコースで、即興、作曲、編曲の3つの賞すべてを受賞した最初の学生という新星だ。2021年3月にアルバム『Where Will the River Flow』でデビューし、すぐに英BBCなどから絶賛された今大注目のアーティストだが、その作品を聴いてみて納得した。
アルバムではピアノのファーガス・マクリーディー(Fergus McCreadie)、ベースのアリ・ワトソン(Ali Watson)、ドラムスのトム・ポッター(Tom Potter)という同世代の若いメンバーとカルテットを組み、スコットランドの伝統音楽を随所に感じさせるセッションを展開する。全曲がマット・カーマイケルのオリジナルで、スロー・バラードもあれば若さが溢れ疾走する曲もあるが、彼自身が「ジャズの理論とテクニックで演奏されるフォークミュージックをやろうとしている」と語っているように、その音楽はどこか懐かしい長閑な風景を思い起こさせる。それは2歳年上で2018年に一足早くデビューしたカルテットのピアニスト、ファーガス・マクリーディーからの影響も強いようだ。
牧歌的なメロディーが心に残る(1)「Sognsvann」はノルウェー・オスロのすぐ北にある小さな湖、ソグスヴァンをテーマにしている。人々が癒しや楽しみを求めてレクリエーションで集う情景が活き活きと描かれた美しい演奏だ。
スコットランド東岸のフォース湾をテーマにした(2)「Firth」などもUKのジャズというよりは北欧ジャズのテイストに近い。さらにスコットランドのハイランド地方にある小さな村コノンブリッジをテーマにした(3)「Cononbridge」、スコットランドに流れるスペイ川をタイトルに冠した(4)「The Spey」(急流の河川として知られているようで、楽曲も激しい!)と、彼にとって思い出のある土地に因んだ楽曲が続く。
間奏の小品を挟んで後半も素敵なタイトルが続くが、8曲目なんて「Dear Grandma」ですよ…。
演奏も本当に素晴らしいが、こうした彼の人柄の温かみもサックスの音に表れているように思う。
Matt Carmichael – tenor saxophone
Fergus McCreadie – piano
Ali Watson – double bass
Tom Potter – drums