アイスランド出身SSWアンナ・グレタのACT第二弾アルバム
2021年に颯爽とメジャーデビューしたアイスランド・レイキャビク出身のピアニスト/シンガーソングライター、アンナ・グレタ(Anna Gréta)が待望のACT発第二弾アルバム『Star of Spring』をリリースした。現在ストックホルムに住む彼女が故郷アイスランドに想いを寄せて弾き語る曲はどれも美しく、特別だ。
前作『Nightjar in the Northern Sky』ではかつて彼女がその飛ぶ貴重な姿を北欧の空で見たヨタカ(夜鷹)をアルバムのテーマに据え、特別で不可欠なものへの探求の比喩とした彼女だが、今作のタイトルはスウェーデン語で「Vårstjärna = 春の星」と呼ばれる4月から5月に咲く小さな花1をタイトルとしている。彼女はこの淡い青色のこの花について「春になると草原を青く染め上げる様子に魅了されただけでなく、その花が開くのは本能的に開かざるを得ないという事実にも感銘を受けました。花には他に選択肢がないのです」と説明する。
叙情的で温かな(1)「Her House」で始まるアルバムには多様な楽曲が並び、アンナ・グレタのソングライターとしての成熟ぶりを窺わせる。
(5)「Metamorphoses of the Moon」と(11)「Denouement」の2曲は米国の詩人シルヴィア・プラス(Sylvia Plaths)の詩からインスピレーションを受けており、彼女の言葉が持つ雰囲気を音楽で捉えようと努めているという。
(6)「Spacetime」は11拍子のリズムや浮遊感のある音階が特徴的だ。
(7)「The Body Remembers」はかつてグリーンランドで1960年代に先住民の出生率を制限する目的で行われた強制避妊の問題について取り上げている。当時グリーンランドにいた妊娠可能な年齢の女性のおよそ半数が被害を受けたといわれるこの非人道的な取り組みは、その規模の大きさの割に被害者たちが口を閉ざし多くを語らなかったこともあり、これまでほとんど顧みられることがなく、批判に晒されることもなかった。
今作はアンナ・グレタが自身一人でアルバムのプロデュースを務めた最初の作品となっている。
北欧ジャズの新星アンナ・グレタ 略歴
アンナ・グレタはアイスランドの首都レイキャビク近郊で生まれ育った。前作に引き続き、今作でもゲスト参加しているクラリネット/サックス奏者のシグルズール・フロサソン(Sigurður Flosason)は父。
彼女の音楽の原体験の記憶はビートルズの「Let It Be」にあるといい、今でもそのピアノと声でシンプルだが強く訴えかける音楽の強い影響下にある。父親の影響もあり、ジャズではビル・エヴァンスに強く惹かれたようだ。
2014年にスウェーデンのストックホルムに移り、王立音楽大学で学んだ。彼女の才能はすぐに広く知られるようになり、各地のコンサートで演奏すると2015年度のアイスランド・ミュージック・アワードのジャズ部門で受賞するなど実力も賞賛されるようになる。2019年にギタリストのマックス・シュルツ(Max Schultz)と共同名義でデビューアルバム『Brighter』をリリース。2021年には名門ACTレーベルからソロ・デビュー作『Nightjar in the Northern Sky』をリリースした。
Anna Gréta – piano, vocals, backing vocals, all keyboards
Einar Scheving – drums, percussion
Skúli Sverrisson – electric bass
Þorleifur Gaukur Davíðsson – guitar, pedal steel
Birgir Steinn Theodórsson – double bass
Magnús Trygvason Eliassen – drums
Sigurður Flosason – bass clarinet
Albert Finnbogason – synthesizer
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- 英語では”Glory of the snow”の通称をもち、日本語ではチオノドクサ、雪解百合などという。 ↩︎