アーミ・ガジャガ、デビューEP『All Black Everything』
ジャズという音楽は、驚くべき若い才能が次から次に登場するから面白い。
そうした圧倒的な才能の持ち主は、伝統というものが長い年月をかけて育んできたジャズの大樹の太い幹に沿って成長しながら、いつしかその個性と創造力を根拠に幹から分かれ、それぞれの方向へと力強く枝を伸ばす。枝の一本一本は太いものもあれば細いものもあるが、そのどれもがジャズという一本の大樹の一部であり、リスナーとしてはまだ知られていない、誰にも見つけられていない“枝”を見つけることも楽しいのだ。ジャズとはそういう音楽だと思っている。
そして、彼女もまたそうした“枝”の一本なのだろう。枝はまだ若いが、すでに凄まじいエネルギーを秘めており、いずれ主要な枝となり得る可能性を秘めている。彼女の名はアーミ・ガジャガ(Amy Gadiaga)。パリ生まれロンドン在住、家系はガンビア、セネガル、マリにルーツを持つというベーシスト/シンガーソングライターだ。
彼女は音楽の可能性に気づくまで、十代の時間をダンスに費やした。ジャクソンズ、スティーヴィー・ワンダー、ベティ・カーターなどのアーティストに影響を受け、お金を貯めてベースを購入。独学でベースを習得したアーミは18歳でイギリス・ロンドンに移り、トリニティ・ラバン音楽舞踊音楽院でジャズ・コントラバスを学び、ロイヤル・フィルハーモニー協会賞を受賞して最近卒業した。
2022年にシングル『Everything I Do』でデビュー。
彼女はすでにロンドンのジャズシーンのなかでトップレベルの存在であることは間違いない。
ここで紹介する2024年リリースのEP『All Black Everything』はアーミ・ガジャガの才能を確信させる傑作だ。飾るところのないナチュラルなヴォーカルも魅力的だが、(1)「Paloma Negra」などでの力強いベースの演奏に強く惹かれる。
EPは脇を固めるミュージシャンも素晴らしい。
アーミ同様にトリニティ・ラバン出身で2022年のBBCヤング・ミュージシャンのファイナリストとなったルーク・バッカス(Luke Bacchus)を筆頭に、トランペットのジョセフ・オティ(Joseph Oti)、アルトサックスのトム・ウォーターズ(Tom Waters)といった若手が多数参加。
2020年のBLM(Black Lives Matter)運動にインスピレーションを得た(5)「All Black Everything」は、人種的アイデンティティの複雑さと社会の“黒い羊(black sheep)”であることの課題に立ち向かい、アーミ・ガジャガが自身が抱える不安を勇気を持って自己啓発の物語に変える姿を描いている。
Amy Gadiaga – double bass, electric bass, piano, vocals
Luke Bacchus – piano, percussions
Joseph Oti – trumpet
Simon Lamb – drums, percussions
Tom Waters – alto saxophone
Christ-Stéphane Boizi – trombone
Isiah Hull – words
Giles Barrett – bvs claps