イタリアの巨匠アントニオ・ファラオ、ジャズの真髄を確信する新譜『Tributes』

Antonio Faraò - Tributes

名手アントニオ・ファラオがアメリカの名手と組んだ最新作

イタリアを代表するピアニスト/作曲家アントニオ・ファラオ(Antonio Faraò)が、ジョン・パティトゥッチ(John Patitucci, b)とジェフ・バラード(Jeff Ballard, ds)という名手を迎えて録音した2024年の新作『Tributes』。8曲のオリジナルと2曲のカヴァーという構成で、目新しさこそないものの、ジャズの粋の結晶のような優れた作品だ。

アントニオ・ファラオというピアニストはかつて“神童”と呼ばれたように、ジャズという音楽の真髄を体現する存在だった。スウィングするグルーヴの躍動感、心を揺さぶるテーマとそれにインスパイアされた自由で感傷的な即興演奏、それらを自在に表現し得る技術。2000年前後にデビューした当時の彼の面影そのままに、今作でも魂の赴くままに次々と繰り出される音符の嵐に抗うことは難しい。
彼の特長である迷いのない確信的なフレージングは感情の伝染性が強いようで、どうしたってこちらの気分も上がってしまう。これもジャズという音楽の原始的な素晴らしさの成せる術だろう。

(1)「Tributes」

2曲のカヴァーは、コール・ポーター(Cole Porter, 1891 – 1964)作の(4)「I Love You」、そしてチック・コリア(Chick Corea, 1941 – 2021)作の(10)「Matrix」。

(7)「Memories of Calvi」は重度の障害を抱えながらジャズの歴史にその名を刻んだ名手ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani, 1962 – 1999)にインスパイアされたオリジナル。抒情的なテーマから様々な感情が溢れ出るアドリブへの展開は心を震わせるものがある。

(7)「Memories of Calvi」

(8)「Syrian Children」はソロピアノで演奏される。かつてこれほどまでに感傷的で美しいピアノはあっただろうか。曲名は確かに誘導的だが、演奏そのものからも何か人間的な共感の想いを感じ取れるのではないだろうか。

本作は1980年に設立されたオランダのレーベル、クリス・クロス(Criss Cross)からのリリース。“現代のブルーノート”と呼ばれる名門からの珠玉のジャズを、ぜひ聴いてもらいたい。こんなに胸のすくような音楽、他になかなかないですよ。

Antonio Faraò 略歴

アントニオ・ファラオは1965年イタリア・ローマに生まれた。父親はジャズドラマー、母親は著名な画家という芸術一家に育ち、幼少期からベニー・グッドマンやカウント・ベイシー、デューク・エリントン、フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルドといったジャズに親しんだという。6歳の頃に最初にヴィブラフォンを学び始め、その後ドラムスも学んだが、最終的にはピアノに落ち着いた。

彼は10代の頃からクラブで演奏し、1983年にミラノの歴史ある国立音楽大学ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院で学位を取得した。1998年にパリ国際ピアノ・ジャズコンクールで優勝し、1999年にエンヤ・レコードからデビュー作『Black Inside』をリリース。

フランスの重鎮ドラマー、ダニエル・ユメールと共演した『Borderlines』(2000年)など、ピアノトリオを軸としながら、2005年にはフランス人女優ソフィー・マルソー主演映画『アンソニー・ジマー』のサウンドトラックをアンドレ・チェッカレッリとロンドン交響楽団とともにロンドンの有名なアビーロードスタジオでレコーディングするなど幅広く活動の場を拡げていった。

Antonio Faraò – piano
John Patitucci – bass
Jeff Ballard – drums

Antonio Faraò - Tributes
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