ポスト・ボッサの旗手ジョン・ローズボロ、妙々たるアンサンブルで魅せる新譜『Fools』

John Roseboro - Fools

ジョン・ローズボロ新作『Fools』

第66回グラミー賞(2024年2月)でのレイヴェイ(Laufey)の受賞が象徴するように、ブラジル国外でのボサノヴァの復興が俄かに注目を浴びつつある。今回紹介するのはハイチにルーツを持ち、ニューヨーク・ブルックリンで活動するシンガーソングライター/ギタリストのジョン・ローズボロ(John Roseboro)。ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンから大きな影響を受けた彼はガットギターでの弾き語りを中心としながらもオリジナリティのある素朴な手触りのデビュー作『Human Nature』(2021年)で注目され、新世代の有力なボサノヴァ・ミュージシャンとして名乗りをあげた。

その後数多くのシングルをリリースし、その中にはメイ・シモネス(Mei Semones)とのデュエットでのA.C.ジョビンのカヴァー(というより、ジョビンへの愛の溢れるほとんど“コピー”だ)である「Waters of March」なんかもあり、徐々にその知名度を高めていった。

そんな彼が待望の2枚目となるフルアルバム『Fools』をリリース。今作は前述のメイ・シモネスをはじめブルックリンの実力派の友人たちが強力にジョン・ローズボロをサポートしており、前作でも味を出していた程よい塩梅のユルさはそのままに、アンサンブルの魅力も楽しめる極上の一枚となっている。

深い哲学がナチュラルな魅力とともに凝縮された音楽

おそらくは録音時にクリック音も使っていないのだろう。演奏は非常に人間的な生々しさがあり、ちょっとしたリズムのヨレが随所に見られるが、そのちょっとした違和感もまた心地よいのだ。ジョン・ローズボロのギターはボサノヴァ特有の奏法であるバチーダも多用されるが、アルペジオもフレーズ弾きも多く、楽曲を単調にさせない彼の魅力となっている。歌詞は英語で歌われており、本場ブラジルのポルトガル語で歌われるボサノヴァともまた一味二味違うという点も面白い。

(2)「80 Summers」

軽快なサンバ/ボサノヴァのテイストを持つ(2)「80 Summers」は人生で体験する80の夏についての純真な問いかけだ。人は間違いを繰り返すが、その悔恨からより良い生き方を追求することはできる。“最小限のことしか語らず、必要以上に語らないこと”を人生哲学とする彼らしいやり方で、ジョンは悔恨を滲ませているように聴こえる。

Eighty summers in your natural born life
Countless lovers, but you only get one wife
And when your sun sets, whether good or bad
Did you love her, did you do your best yes

生まれてから80の夏
数え切れないほどの恋人がいたけど、妻は一人しかいない
そして日が沈む時、良い時も悪い時も
彼女を愛していたか、最善を尽くしていたか、そう

(4)「Hit」

ほとんどのトラックで“隣人”の打楽器奏者のルーク・ジュニア(Luke Jr)と木管とピアノのマルチ奏者であるヤンプ(Yamp)がアンサンブルに参加しており、温かみのある素晴らしい演奏を聴かせてくれる。(8)「Crumb」にはブラジルにルーツを持つイギリスのSSW、リアナ・フローレス(Liana Flores)がヴォーカルで参加。

この作品は、ほんの数年前まで無一文の状態だったというジョン・ローズボロの謙虚で美しい人生の瞬間が凝縮されており、それは彼を聴く多くの人にも幸せを運ぶようだ。

“ポスト・ボッサ”の提唱

カリフォルニア州で葬儀屋として成功していたが、あるとき、自分は音楽をやるべきだと感じ、そして「やるのであれば100%集中するんだ」と思い立ったのだという。2021年末、“悪い関係とさらにひどい別れ”の後、彼は以前の生活から完全に離れ、すべての物質的な財産を元妻へと残しニューヨークへとやってきた。生活は、音楽を第一にすると決めた彼にとっては優先順位リストの第二位となった。

ニューヨークで彼は持ち前の社交的な立ち振る舞いですぐに隣人のドラマーと仲良くなり、他の友人やルームメイトを通じてバンドが結成された。

ジョン・ローズボロは自らの音楽スタイルを“ポスト・ボサノヴァ”と呼ぶ。
彼はブラジルでボサノヴァが短期のムーヴメントに終わった理由を、当時のブラジルの独裁政権による抑圧という状況の中でボサノヴァの楽曲の歌詞が“軽薄で虚栄心が強すぎた”からだと分析している。一方で、彼は自身の歌について“実際には破壊的で、控えめだが革命的”だと説明している。前述のようにジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンから大きな影響を受けているが、同じかそれ以上にマック・デマルコ(Mac DeMarco, 1990 – )やキング・クルール(King Krule, 1994 – )といったアーティストからも影響を受けているという。

John Roseboro – vocals (all tracks), guitars (all tracks), bass (4, 7, 9), percussion (1, 6, 4, 9, 10), accordion (6), saz (10)
Luke Jr – drums, percussion (1, 3, 4, 7, 8, 9, 10)
Yamp – saxophone (1, 2, 3, 4, 6, 7, 8, 9, 10), piano (6, 8)
Reid Devereaux – trumpet (2, 8), French horn (4, 9), bass (2, 4), slide (8)
Mei Semones – vocals (1, 2), guitar (1)
John Lisi – upright bass (1, 3, 6, 10)
Michael Barnes – bass (8)
Ransom McCarthy – percussion (2)
Claudius Agrippa – violin (10)
Regina – clarinet (5)
Liana Flores – vocal (8)

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