世界に癒しを──。伊ピアニスト、アントニオ・ファラオが新機軸を提示する『Heal The World』

Antonio Faraò - Heal The World

アントニオ・ファラオ、サックスや女性ヴォーカルも迎えた新作

イタリアを代表するピアニスト、アントニオ・ファラオ(Antonio Faraò)によるスタンダードなどカヴァー曲を中心とした新作『Heal The World』。アルバム・タイトルに採用されたのはマイケル・ジャクソン(Michael Jackson, 1958 – 2009)が湾岸戦争勃発と同時期の1991年に発表した反戦歌であり、“世界に癒しを”というテーマが今作全体に通底する。

バンドはカルテット編成を基本としており、メンバーはファラオ以下、アルトサックスのラッファエレ・フィエンゴ(Raffaele Fiengo)、ドラムスのパスクワーレ・フィオーレ(Pasquale Fiore)、ダブルベースのカルロ・バヴェッタ(Carlo Bavetta)といういずれもイタリアの若手を起用している。管楽器入りの編成というのもアントニオ・ファラオにとって珍しいが、ラッファエレ・フィエンゴのプレイは音色もテクニックも抒情性も素晴らしく、今作の聴きどころとして充分すぎるほどの存在感。

そしてもう一人、3曲でヴォーカルを披露するのが1994年生まれの女性歌手ロベルタ・ジェンティーレ(Roberta Gentile)。イタリアを代表するSSWピノ・ダニエレ(Pino Daniele, 1955 – 2015)の代表曲である(2)「Anna Verrà」、今作のリード・トラックである(8)「Heal The World」、そしてラテンアメリカの超名曲(10)「Besame Mucho」で聴くことのできる彼女の声はソウルフルで、癒しをテーマとした今作に相応しい。

ロベルタ・ジェンティーレをフィーチュアした(2)「Anna Verrà」

個人的に今作を聴くきっかけとなったのは、イタリアが生んだ名映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」である(7)「Nuovo Cinema Paradiso」だ。映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone, 1928 – 2020)とその息子アンドレア・モリコーネ(Andrea Morricone, 1964 – )作曲の不朽の名曲を、アントニオ・ファラオがスウィング・ジャズにアレンジ。正直、スウィングさせるような曲ではないと思うし、構成も安直な印象も受けるのだが、選曲自体は少なくとも間違ってはいない。

(7)「Nuovo Cinema Paradiso」

Antonio Faraò プロフィール

アントニオ・ファラオは1965年イタリア・ローマに生まれた。父親はジャズドラマー、母親は著名な画家という芸術一家に育ち、幼少期からベニー・グッドマンやカウント・ベイシー、デューク・エリントン、フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルドといったジャズに親しんだという。6歳の頃に最初にヴィブラフォンを学び始め、その後ドラムスも学んだが、最終的にはピアノに落ち着いた。

彼は10代の頃からクラブで演奏し、1983年にミラノの歴史ある国立音楽大学ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院で学位を取得した。1998年にパリ国際ピアノ・ジャズコンクールで優勝し、1999年にエンヤ・レコードからデビュー作『Black Inside』をリリース。

フランスの重鎮ドラマー、ダニエル・ユメールと共演した『Borderlines』(2000年)など、ピアノトリオを軸としながら、2005年にはフランス人女優ソフィー・マルソー主演映画『アンソニー・ジマー』のサウンドトラックをアンドレ・チェッカレッリとロンドン交響楽団とともにロンドンの有名なアビーロードスタジオでレコーディングするなど幅広く活動の場を拡げていった。

Antonio Faraò – piano
Pasquale Fiore – drums
Raffaele Fiengo – alto saxophone
Carlo Bavetta – double bass
Roberta Gentile – vocal (2, 8, 10)

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