ファンキ・カリオカをポップにし、お茶の間にも広めた伝説的デュオ「クラウヂーニョ&ブシェッシャ」の全ディスコグラフィー|『僕らの夢〜ファンキ・カリオカ〜』をブラジル映画祭+ で日本初公開

 2026年1月9日(金)- 15日(木)に、ヒューマントラストシネマ渋谷を会場に開催される「ブラジル映画祭+」で、「ファンキ・カリオカ(Funk carioca)の伝説のデュオ「クラウジーニョ&ブシェッシャ(Claudinho & Buchecha)」の軌跡を描いた伝記映画が上映される。タイトルは『僕らの夢〜ファンキ・カリオカ〜』。こちらが予告編だ。

 『僕らの夢~ファンキ・カリオカ~』(原題:Nosso Sonho)は、リオのファヴェーラを中心に発展した「ファンキ・カリオカ(Funk carioca)」を1990年代に全国区のポップ・シーンへ押し上げた、伝説のデュオ「クラウジーニョ&ブシェッシャ(Claudinho & Buchecha)」の軌跡を描いた伝記映画だ。彼らの代表的なヒット曲には「Fico Assim Sem Você」「Quero Te Encontrar」「Só Love」「Rap Do Salgueiro」「Nosso Sonho」などがある。2人はリオのファヴェーラで育った幼なじみで、友情と夢で結ばれた彼らが生み出したメロディックなヴォーカル中心のファンキは、愛・友情・青春・日常の喜びを前面に出したポジティブでロマンティックな楽曲だった。瞬く間に人気を集め全国区のポップ・スターとなり、ジャンルの境界を広げた。貧困地区出身ながら全国的スターになった事実も象徴的で、ファヴェーラの若者に希望を与える存在となった。
 その2人の半生を主演の2人が魅力的に演じて評判を呼び、この映画もブラジルで広く愛された。2023年には、ブラジル国産映画の興行収入・観客動員数で堂々の1位を記録した。

 クラウジーニョ&ブシェッシャのファンキ・カリオカは、Funk Melody(ファンキ・メロディ)、またはFunk Melodia(ファンキ・メロヂア)と呼ばれた。一言で言えば、過激さを抑え、ロマンチックな歌詞と歌えるメロディを重視した、ポップなファンキだった。

 1990年代、リオデジャネイロのファヴェーラ(スラム街)で生まれたファンキは、当初、階級・人種・治安の文脈と結び付けられて危険視されやすかった。

 しかし、DJマルボロ(DJ Marlboroらがプロデュースを行い、より親しみやすい「ファンキ・メロディ」が登場すると状況が一変した。クラウジーニョ&ブシェッシャはその変化の中心にいた(クラウジーニョ&ブシェッシャのプロデュースはDJマルボロではない)。ファンキ・カリオカのビートに乗って「愛」を歌うことで、ファンキは危険なものから「ブラジル全土のポップミュージック」へと進化した。これにより、ファンキはラジオやテレビで放送される市民権を得た。

 そんな歴史的背景を踏まえながら、クラウジーニョ&ブシェッシャ(Claudinho & Buchecha)の全ディスコグラフィー(オリジナルアルバム5作とライヴアルバム1作)と代表曲を紹介したい。

①『Claudinho & Buchecha』 (1996)

〜伝説の始まり〜 彼らのデビューアルバムであり、ブラジル音楽界に衝撃を与えた作品。当時のファンキは過激な歌詞が多かった中で、彼らは愛や夢を歌う親しみやすいスタイルを提示した。サンパウロやリオのラジオ局で爆発的なヒットとなり、彼らを一躍スターダムに押し上げた記念碑的な一枚。シンプルながらも中毒性のあるビートと、二人の掛け合いの魅力が詰まっている。

代表曲①「Nosso Sonho」:
 上記の映画の原題にもなっている楽曲。曲調は非常に明るく幸せなラブソングに聞こえるが、実は当時15歳だったブシェッシャが、12歳だったガールフレンド(現在の妻)への許されざる恋心と、いつか結ばれたいという切実な願いを歌った曲だ。歌詞にある「僕らの夢は終わらない」という誓いは、周囲の反対や年齢の壁を乗り越えようとする若者の純愛を描いている。

Chorus: “Nosso sonho não vai terminar” “Desse jeito que você faz”
日本訳: 「僕たちの夢は終わらせない」 「君(=反対する世間や大人たち)のやり方じゃ終われない」

代表曲②「Rap do Salgueiro」:
 彼らの「原点」。友人たちに背中を押されて出場したアマチュアのラップ・フェスティヴァルでこの曲を披露し注目され、DJ マルボロ(上述)の目に留まり、彼のコンピレーション・アルバムに収録され、ラジオで流れるチャンスを掴んだ。この曲がなければ彼らのその後の成功はあり得なかった。タイトルの「Salgueiro(サルゲイロ)」とは、彼らの出身地であるサンゴンサロ市のサウゲイロ地区(ファヴェーラ)のこと(リオのカーニバルで有名なサンバチームのサルゲイロとは別の場所)。外部からは「危険なスラム」と見られがちな地元を、「楽しい場所」「平和な場所」として誇りを持って歌にした。

②『A Forma』 (1997)

〜スタイルの確立と洗練〜 デビュー作の大成功を受け、よりプロダクションの質を高めてリリースされた2作目。前作の勢いを保ちつつ、よりポップでR&Bに近いアプローチも取り入れている。このアルバムによって、彼らが「一発屋」ではなく、確固たる才能を持ったアーティストであることが証明された。バラードとダンストラックのバランスが絶妙な作品。

代表曲①「Quero te Encontrar」:
 前作収録の「Nosso Sonho」に続く大ヒットとなった非常にダンサブルでキャッチーなナンバー。今でもブラジルのパーティーで流れる定番曲。
 タイトルの “Quero te Encontrar” は、日本語で「君に会いたい」や「君を見つけたい」という意味。サビ(コーラス)に爆発力があり、”Quero te encontrar / Quero te amar” (君を見つけたい / 君を愛したい)”Você pra mim é tudo / Minha terra, meu céu, meu mar” (君は僕のすべて / 僕の大地、僕の空、僕の海)── このシンプルかつ壮大な愛の告白が、ブラジル人の心をつかんだ。「ファンキ・メロディ」というジャンルの完成形とも言える曲。リリースから25年以上経った現在でも、ブラジルの結婚式、卒業パーティー、カーニバルなどで「必ず盛り上がる鉄板曲」として流れ、世代を超えるアンセムとなっている。

代表曲②「Meu Compromisso」:
 タイトルの「compromisso」はポルトガル語で「約束」の意味だが、この曲ではほぼ“本命の相手(すでにある関係)”のニュアンスで使われている。
 ・目の前の相手に惹かれている(誘惑がある)
 ・でも「自分には守るべき関係がある」ので一線は越えない
 “揺れるけど戻る”ロマンチックな構図の楽曲。口説きと自制が同じフレーズの中でせめぎ合う歌詞がこの曲のキモ。

③『Só Love』 (1998)

〜キャリアの頂点〜 彼らのキャリアの中で最も商業的に成功したアルバムの1つ。タイトルの「Só Love(ソー・ラヴ)」という言葉は、当時のブラジルで「平和」「愛」「順調」などを意味するスラングとして社会現象化した。ミリオンセラーを記録し、老若男女問わず愛される国民的デュオとしての地位を不動のものにした。

代表曲①「Só Love」:
 アルバムの表題曲で、彼らのキャリアの中でも「いちばん広く刺さった代表曲」と言っていい曲。ポルトガル語の só =「ただ、〜だけ」 に、英語の love をくっつけた造語っぽいノリで、ニュアンスは「君だけ」「愛だけ(他はいらない)」。中身はかなりストレートな“熱量高めのラブソング”。
・身体感覚まで含めて相手に惹かれている(かなり官能寄り)
・でも「誰でもいい」ではなく、相手は“あなた”に固定
「理屈を脱いで感情を出したい、愛するなら君と」みたいに、独占欲と誠実さが同居する。
 当時のブラジル社会に「新しい言葉」と「ポジティブな精神」を定着させた社会現象的な一曲だった。スラム街(ファヴェーラ)発の言葉が、テレビや日常会話を通じてブラジル全土の共通言語になった瞬間だった。

代表曲②「Xereta」:
 彼らの全盛期である1990年代後半のブラジルのパーティーシーンを象徴するような、明るくダンサブルなナンバー。タイトルの「Xereta(シェレタ)」とは、ポルトガル語の俗語で、「おせっかいな人」「詮索好きな人」「部外者」という意味。この曲でのニュアンス: この歌詞においては、「人の彼女にちょっかいを出してくる邪魔者」や「横恋慕しようとする男」を指して使われていて、この曲は、「自分の彼女に近づこうとする男(Xereta)を追い払う」というストーリーだ。
 歌詞のキーフレーズ:“Sai pra lá, xereta” (あっち行け、邪魔者)“Deixe a minha gata em paz” (俺の彼女を放っておいてくれ)

④『Ao Vivo』 (1999)

〜熱狂のライブ盤〜 絶頂期に行われたライブの模様を収録したアルバム。スタジオ録音以上に、彼らのパフォーマンスのエネルギーや観客(通称:マッサ・ファンケイラ)との一体感を感じることができます。単なるヒット曲の羅列ではなく、バンド演奏を取り入れたアレンジや、ライブならではの即興的な掛け合いが楽しめる。

代表曲①「Coisa de Cinema」 (Live):
 アルバム冒頭の曲。会場の熱気が伝わってくる録音。
 タイトルの「Coisa de Cinema(コイザ・ジ・シネマ)」の意味は、直訳すると「映画のようなこと」や「映画のネタ」。 転じて、「映画みたいにすごいこと」「非日常的でロマンチックな出来事」という意味合いがある。
 楽曲は 「僕たちの恋物語は、まるでハリウッド映画のような大作になる」と歌う、非常にロマンチックで夢見がちなラブソング。恋愛の高揚感を、映画の撮影やスクリーンの中の出来事に例えている。

 後年になって「予言の歌」としてファンの胸を打つことになった。
 歌詞にはこう続く。“Mas se ninguém gostar não tem problema” (でも、もし誰も気に入らなくても問題ないよ) “Meu bem, um grande amor não há quem mude” (愛しい人よ、偉大な愛を変えられる人はいないから)
 当時は単なる「2人の世界」を歌ったものだったが、クラウヂーニョの早すぎる死(2002年)を知る現在の視点で聴くと、「たとえ世間がどう評価しようと、僕たちの絆(愛)は永遠だ」という、彼らの友情そのものを歌っているようにも響き、涙を誘う。
 歌詞の中で「僕らの物語は映画になる」と歌っているが、2023年に彼らの伝記映画『Nosso Sonho(邦題:僕らの夢〜ファンキ・カリオカ〜)』がブラジルで公開され、大ヒットした。本当に映画になった

代表曲②「Conquista」 (Live):
 「征服」という意味のタイトルで、ダンスフロアを盛り上げるパーティーチューン。独特の振り付け(ダンス)があり、当時のブラジルの若者はみんなこの曲で踊っていた。「Sabe, tchu-ru-ru-ru(サビ、チュルルル)」というキャッチーなフックが耳に残るのが聴きどころ。ライブではコール&レスポンスが行われ、会場のボルテージが最高潮に達する瞬間が記録されている。

⑤『Destino』 (2000)

〜成熟と原点回帰〜 2000年代に入り、ファンキのトレンドが変化する中でリリースされた意欲作。ポップさを保ちつつも、少し大人びた歌詞や、より重厚なビートを取り入れるなど、アーティストとしての成熟が見られる。一部の楽曲では、彼らのルーツである、よりパーカッシブなファンキ・ビートへの回帰も感じさせる。

代表曲①「Males」:
 タイトルの「Males」はポルトガル語で「悪」や「災難」「悪いこと」の複数形。この曲のサビで繰り返される有名なブラジルのことわざがテーマになっている。
“Há males na vida que vêm para o bem” (人生には、良いことのためにやって来る災難もある = 雨降って地固まる)
 一見すると辛い出来事(別れや災難)も、後になってみれば、それがきっかけでより良い人生や幸せをつかむことができる、というポジティブなメッセージが込められ、「失恋と自己肯定」をテーマにしている。「失恋や辛い出来事も、未来の幸せのためのステップにすぎない」と背中を押してくれる、非常に勇気づけられる楽曲。

代表曲②「Destino」:
 タイトルはポルトガル語で「運命」や「宿命」の意。「僕たちがこうして出会って恋に落ちたのは、偶然ではなく、運命がそう望んだからだ」という、運命論的な愛を歌っている。成熟したバラード・ファンキで、踊らせるための激しいビートではなく、体を揺らしながら聴き入るような、ゆったりとしたR&Bテイスト。普段の何気ない行動や選択が、すべて「君」に出会うための伏線だった、という非常にロマンチックな歌詞。

※ 1部の曲のみ聴ける。

⑥『Vamos Dançar 』 (2002)

〜早すぎた別れと永遠の名曲〜 デュオとしての最後のアルバム。このアルバムのリリース直後(プロモーション期間中)の2002年7月、クラウジーニョが自動車事故で急逝するという悲劇が起きた。 収録された「Fico Assim Sem Você」は、もともとはラブソングだったが、クラウジーニョの死後は「相棒を失った喪失感」を象徴する曲としてブラジル中が涙した。彼らの友情と才能が詰まった、美しくも切ないラストアルバム。

代表曲①「Fico Assim Sem Você:
 「Fico Assim Sem Você(あなたなしではこうなってしまう)」は、彼らの楽曲の中で最も美しく、そして最も悲しい歴史を持つ、彼らの最高傑作とも言えるバラード。「あなたがいないと、自分は不完全な存在だ」ということを、数々のユニークな比喩を使って表現したラブソング。元々は恋人への愛を歌った曲でだったが、現在では「「クラウヂーニョを失ったブシェッシャの心情」そのものとして聴かれている。

有名なフレーズ:
“Avião sem asa” (翼のない飛行機)
“Fogueira sem brasa” (火の気のない焚き火)
“Sou eu assim sem você” (あなたなしの私は、そんな風だ)
“Futebol sem bola” (ボールのないサッカー)
“Piu-Piu sem Frajola” (シルベスターのいないトゥイーティー ※アニメ「トゥイーティー&シルベスター」)

 また、この曲は、ファンキ(Funk)というジャンルの枠を超えて、ブラジル音楽(MPB)のスタンダードナンバーとなった。カバーしたのはアドリアーナ・カルカニョット(アドリアーナ・パルチンピン名義)で、アコースティックアレンジでカバーし、大ヒットした。「ファンキ歌手の曲」という偏見を持っていた層にも、「なんて美しいメロディと歌詞なんだ」と再評価されることになった。子供から大人まで歌える国民的な童謡のような扱いとなっている。

代表曲②「Gostosa:
 明るく楽しいダンスチューン。「Gostosa(ゴストーザ)」はポルトガル語で「おいしい」という意味だが、人物に対して使うと「セクシーな」「魅力的な」「いい女」という(かなり直接的な)褒め言葉になる。この曲には「Melô do Piscinão(メロ・ド・ピシナン)」という別名がついているが、ピシナンは、リオデジャネイロにある巨大な人工海水浴場「ピシナン・ジ・ラモス(Piscinão de Ramos)」のことで、ゾナ・スルの高級ビーチ(コパカバーナなど)ではなく、庶民が集まるこの場所を舞台にしている点で、彼ららしい「庶民派の賛歌」という側面がある。「Gostosa」は、深いメッセージ性よりも、「夏だ、ビーチだ、女の子だ!」というリオデジャネイロの陽気な空気感をそのままパッケージしたような曲。


https://cinebrasilplus2026.sea-jp.org

クラウヂーニョ&ブシェッシャの伝記映画『僕らの夢 〜ファンキ・カリオカ〜』が観れるのは…

1月10日(土)
1月12日(月・祝)
1月14日(水)です。

※オンラインでの配信はありません。

劇場のみ特別上映

『僕らの夢 〜ファンキ・カリオカ〜』

NOSSO SONHO© URCAFILMES & WARNER BROS.2023

2023, 120分, ドラマ, 年齢制限 12歳以上

ブラジル中が熱狂した2人の物語、あなたもきっと好きになる

 1990年代、ファンキ・カリオカの新しい潮流を築いた伝説のデュオ「クラウジーニョ&ブシェッシャ」。リオのファヴェーラで育ち、友情と夢で結ばれた2人が生み出した軽快なメロディは瞬く間に人気を集め、全国を踊らせたが ──。国民から愛されたデュオの絆が主演二人の好演でスクリーンに蘇り、観客を魅了する。2023年、ブラジル国産映画の興行収入・観客動員数で堂々の1位を記録した話題作。

スタッフ

監督: エドゥアルド・アルベルガリア
脚本: フェルナンド・ヴェラスコ, マウリシオ・リソフスキ, ダニエル・ヂアス, エドゥアルド・アルベルガリア
プロデューサー: レオナルド・エッヂ
製作会社: ウルカ・フィルミス
美術監督: カレン・アラウージョ
撮影: ジョアン・アタラ
音響: ペドロ・サルダーニャ
編集: エドゥアルド・アルベルガリア, ヴァルヂール・ザヴィエール

出演
ジュアン・パイヴァ, ルーカス・コカ・ペンテアード, ナンド・クーニャ, タチアーナ, チブルシオ, レレ, クララ・モネキ, グスタヴォ・コエーリョ, ボッカ・ヂ・ゼロノーヴィ, アントニオ・ピタンガ, ヘイナルド・ジュニオール

作品の受賞歴
第16回 LABRIFF(ロサンゼルス、2023)
最優秀作品賞、最優秀助演男優賞

ペトロポリス映画祭(Festival de Petrópolis)
最優秀作品賞、最優秀主演男優賞

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