スコットランドのピアニストは、E.ジスモンチを愛してやまない
スコットランドのピアニスト、ポール・ハリソン(Paul Harrison)の2025年新作『Encontros』は、彼が敬愛してやまないブラジルの巨匠エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)曲集だ。アルバムはジスモンチ本人が「独創的で優美で、自由な遊び心がある」と絶賛。総勢8名のミュージシャンによる様々な編成によって、彩り豊かに繰り広げられる音楽の世界を堪能できる作品となっている。
ポール・ハリソンは長年にわたり、ブラジル系スコットランド人ベース奏者のマリオ・リマ・カリべ(Mario Lima Caribé)とスコットランド人ドラマーのスチュアート・ブラウン(Stuart Brown)とともにトリオ・マジコ(Trio Magico)としてジスモンチの楽曲を演奏してきた。今作はその集大成としてジスモンチの名曲を10曲セレクトし収録。それぞれの曲は原曲の旋律やコードの構成をほぼ変えることなく、リスペクトをもって自身のジャズを表現。唯一、(3)「Transition」がポール・ハリソンと打楽器奏者エドモンド・カルネイロ(Edmundo Carneiro)の共作によるオリジナルだが、この演奏もエグベルト・ジスモンチとナナ・ヴァスコンセロス(Naná Vasconcelos, 1944 – 2016)の伝説的なデュオを彷彿させるスピリチュアルな小品となっている。
“トリオ・マジコ”によって演奏される美しく情熱的な幕開け(1)「Ano Zero」から、彼らのジスモンチの音楽への深い愛情が垣間見える。ジスモンチのキャリア初期を代表するこの名曲を、彼らはダブルベースのソロ演奏による印象的な導入から、丁寧にテーマのメロディーを紡ぎ、抒情豊かな即興を交えて展開してゆく。トリオの演奏は次第に熱を帯び、ラストは三位一体の高揚感で締めくくる。
トリオによる演奏だけではなく、多彩な編成が試みられていることも今作の大きな特徴だ。
(2)「Palhaço」はポール・ハリソンのピアノと、アルトサックス奏者ローラ・マクドナルド(Laura Macdonald)のデュオ演奏。さらに(4)「Lôro」はヴォーカリストのレイチェル・ライトボディ(Rachel Lightbody)が軽やかなスキャットを聴かせてくれる。
今ではピアニストとして活躍するジスモンチの娘の名を冠した(7)「Bianca」には、スコットランドのロー・ホイッスル奏者のフレイザー・ファイフィールド(Fraser Fifield)が参加。素朴で愛情豊かな笛の音色が美しい。
(10)「Sete Aneis」のゲストは韓国出身でスコットランド在住のチェリスト、スーア・リー(Su-a Lee)。クラシックや現代音楽のエッセンスも織り交ぜて演奏されるジスモンチ屈指の美曲の再解釈は必聴もの。
Paul Harrison – piano, melodica, synthesizer
Mario Lima Caribé – double bass, cavaquinho
Stuart Brown – drums, percussion
Edmundo Carneiro – percussion
Laura Macdonald – alto saxophone
Rachel Lightbody – vocal
Su-a Lee – cello
Fraser Fifield – whistle