独特の神秘的な世界観に魅了される
まずは下のライヴ動画を観てほしい。
オーガニックなガットギターのイントロに合わせて不思議に舞う、暗黒舞踏を彷彿とさせるダンサー。
歌が始まると、バックの演奏は呪術的なアフロ・ブラジルの強いリズムを叩き出す。
かといって決して粗野ではなく、ヴォーカリストの美しい声や佇まいとも相まっておしゃれで上品な印象さえ受ける。
ラップ調で歌う部分や、急にアラビックで怪しげな音階も飛び出したりして、最後までこの独特で圧倒的な世界観の映像と音楽に惹き込まれる。
ナターシャ・レレーナ。度肝を抜いたデビュー作
この歌手/ダンサーの名はナターシャ・レレーナ(Natasha Llerena)。
リオデジャネイロ出身、デビューアルバム『Canto Sem Pressa』発表当時24才。
ブラジル音楽と、そのルーツでもあるアフリカ、イベリア、アラブといった多様な音楽を消化吸収し、アルバムで表現してみせた。
アルバムは全編に渡って斬新な表現で溢れ、ゲストとしてブラジルを代表するピアニストのアンドレ・メマーリ(Andre Mehmari)、A.C.ジョビンと活動を共にし、坂本龍一ら世界中との共演でも知られるチェリストのジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)、サンバやショーロの分野での大物サックス/フルート奏者エドゥアルド・ネヴィス(Eduardo Neves)などが彼女のデビューに花を添えている。
また、アルバム制作開始と同時期に妊娠が発覚。
この出来事は彼女のクリエイティブな作業にも重要な影響を与えたという。
2016年のブラジル音楽ベスト100にも選出された、折り紙つきの作品
このアルバムはブラジルのWeb情報サイト「Embrulhador」において、2016年の”100 Best Brazilian Albums of the Year”にも選出されている。
その驚くべきクオリティの割に日本での知名度は低いが、自信をもっておすすめできる作品だ。
ちなみに、冒頭に紹介した「Giros」の映像でも印象的なダンスを披露していたボディペインティングを施した男性ダンサーはManuel Kanzaといい、彼もまたブラジルのアフロハウスのダンサーとして注目されている方のようだ。