カリブ海に浮かぶ美しい島、グアドループ
ソニー・トルーペ・カルテット(Sonny Troupé Quartet)の2013年作『Voyages et Rêves』は、グアドループの伝統的な打楽器による強烈なグルーヴが特徴的なカルテット編成(ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッション)の好盤だ。
グアドループ、と聞いても、即座にその場所を答えられる人は少ないだろう。
カリブ海・西インド諸島に浮かぶフランス領グアドループは、クリストファー・コロンブスが15世紀末に“発見”し、黒人奴隷制によるサトウキビやバナナの栽培で発展してきた美しい島だ。火山や熱帯雨林を抱えた豊かな風土は、三角貿易の重要な拠点としてフランスに多くの富をもたらした。
近代奴隷制以来、アフリカ系や混血のクレオール人が住人のほとんどを占め、独特の文化が育まれてきた。音楽も例外ではなく、西アフリカ起源の打楽器ジャンベの影響の色濃い「カ(ka)」という打楽器を中心とした「グウォカ」という音楽が伝統的に受け継がれてきている。
伝統音楽とヨーロピアンジャズの美しい邂逅
そんなグアドループ出身のドラマー/パーカッショニストであるソニー・トルーペ(Sonny Troupé)の初リーダー作がこの『Voyages et Rêves』。
ピアニストとしてグアドループ近隣、同じくフランス海外県マルティニーク出身のグレゴリー・プリヴァ(Gregory Privat)が参加している。このマルティニークはコロンブスが「世界で最も美しい島」と呼んだという逸話も残る、“花の島”または“女の島”が語源の島で、ナポレオンの妻ジョゼフィーヌの出身地でもある。
(1)「Intro」で演奏される強烈なパーカッション・アンサンブルは、「グウォカ(gwoka)」と呼ばれるグアドループの伝統音楽だ。このアンサンブルでも聴こえるグアドループの伝統的な打楽器カ(ka)は、アルバム全編でフィーチュアされている。
このイントロからシームレスになだれ込む(2)「Jénérik (Mèsi Pou Yo)」はフルートも加わったファンキーなジャズナンバー。
(3)「Ki Koté」はグレゴリー・プリヴァの楽曲で、今作のハイライトとも言えるメロディアスで美しい曲だ。
グレゴリー・プリヴァといえば、ラーシュ・ダニエルソン(b)のバンドにティグラン・ハマシアンの後釜として参加するほどの実力者である。透明でヨーロッパ的な美しいジャズピアノの音色が特徴的で、現在のヨーロピアン・ジャズシーンでは最も注目されるピアニストの一人だ。
そしてアルバムの表題曲でもある(4)「Voyages et rêves」。タイトル直訳は「航海と夢」。嵐を予感させる混沌とした7拍子のパートと、饒舌なパーカッションが彩る夢見心地な4拍子のパートが交互に繰り返され、ソニー・トルーペのドラムソロやリンレイ・マルト(Linley Marthe, モーリシャス出身)のテクニカルなベースソロが披露される。
もう、これがむちゃくちゃにクールでホットで、かっこいいのだ。
楽曲の終盤にはマーティン・ルーサー・キング牧師による超有名な演説もサンプリングされていたりして、どうしてこうも痺れるポイントを完璧に押さえてくるんだ、と感激するくらいである。この楽曲にはMVも用意されているので、ぜひご覧いただきたい。
グアドループやマルティニークのジャズはなかなか日本語で発信される情報が少ないが、ここに紹介したソニー・トルーペやグレゴリー・プリヴァらの動向には注目していきたい。
Grégory Privat – piano, Rhodes, synthesizer
Sonny Troupé – drums, percussion
Mike Armoogum – bass
Arnaud Dolmen – percussion
Olivier Juste – percussion
Fabrice Troupé – alto saxophone (6)
Kenny Garrett – alto saxophone (9, 14)
Lucile Kancel – backing vocals (5, 6, 11)
Patrice Hulman – backing vocals (5, 6, 11)
Linley Marthe – bass(4)
Mano Falla – bass (6)
Raymond D’Huy – bass (8)
Stéphane Castry – bass (6)
Franck Nicolas – bugle (6)
Yvan Juraver – Rhodes (6, 14)
Jenna Legros – flute (6, 11)
Magic Malik – flute (2)
Christian Laviso – guitar (9, 11)
Ralph Lavital – guitar (2, 9)
Zagalo – lead vocal (5)
Fred Anasthase – percussion (5, 14)
Marcel Iscaye – percussion (6)
Ferdinand Doumerc – tenor saxophone (6, 14)
Fabrice Troupé – vocals (5)
José Maragnes – vocals (3, 13)