濃密イスラエルジャズを堪能できる『It’s About Time!』
近年盛り上がりを見せるイスラエル・ジャズ界隈でも、このオムリ・モール(Omri Mor)は特に注目されるピアニストだった。
世界的ベーシスト、アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)とのトリオや、イスラエルが誇る異能のサックス奏者ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)のバンドなどで活躍し、一聴して彼とわかる中東色の濃い独特のピアノソロに虜になった人も多いはずだ。
そんな彼が2018年に満を持して発表した初リーダー作が、この『It’s About Time!』というなんとも期待感を煽るタイトルの作品である。やはりジャズのミュージシャンにとってはパートが何であれ、名刺がわりとも言える自身のリーダー作というのは重要だ。イスラエルジャズシーンの中心で度肝を抜くような目立った活躍をしていながら、これまでにオムリ・モール自身のリーダー作がなかったことが不思議なくらいだ。
オムリ・モール(Omri Mor)は1983年イスラエル生まれ。
早くからクラシックとジャズの両方を学び、交響楽団のピアニストとしてクラシックの分野でも活躍する傍ら、ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)のバンドに帯同するなどジャンルを超えて活躍をしてきた。また、モロッコやアルジェリアのミュージシャンとの共演も重ねており、そうしたアラブ音楽圏の影響が強く、さらにはアンダルシアのフラメンコ音楽の影響も受けるなど珍しいタイプのピアニストでもある。
アルバムにはアヴィシャイ・コーエンも参加
アルバムはボーナストラックも含めて全11曲。そのほとんどがオムリ・モール自身の作曲によるオリジナルだ。
世界的ベーシストのアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen, b)や、北アフリカのアルジェリア出身で同地の伝統音楽グナワのリズムを取り入れたドラミングが特徴的なカリム・ジアッド(Karim Ziad, ds)の参加曲が目立つが、曲によってはソロピアノだったり別のベーシストやドラマーが参加するなど、バラエティ豊かな編成となっている。
オムリ・モールの演奏もこれまで見せてきたものに変わらず中東色の濃い独特のピアノで、ピアノソロの音選びは天才的な閃きの連続に驚かされる。
ヴォーカルもフィーチュアし、“グナワ・ジャズ”の趣のある(7)「Marrakech」(マラケシュ=モロッコ中央部の都市名)は異色の完成度でとても面白い。
数少ないカヴァー曲(9)「You & the Night & the Music」、(10)「Caravan」はどちらもソロピアノで演奏されるが、共に特筆すべき演奏だ。多くのジャズミュージシャンらに好んで取り上げられるこれらの名曲も、オムリ・モールによって中東風の味付けがなされ聴きごたえ抜群。
イスラエルからは近年数多くの若手ミュージシャンが輩出されているが、イスラエルらしい音という面ではピアニストではオムリ・モールの右に出る者はいないだろう。