アンドレア・モティスの集大成的アルバム『Intimate』
サン・アンドレウ・ジャズバンド出身のトランペット奏者/シンガーのアンドレア・モティス(Andrea Motis)の2026年新譜『Intimate』は、彼女の音楽的ルーツであるフォーク、R&B、ジャズ、そして特にブラジルの音楽たちを、ギタリストとのデュオで淑やかに演奏する親密な作品だ。1曲を除きカヴァーとなっており、幅広いジャンルからの選曲は、10代の頃から華やかな活躍で注目されてきた彼女の音楽的な集大成と言えるだろう。
アルバムの収録曲はブラジル出身のジュランヂール・ダ・シルヴァ(Jurandir Da Silva)と、カタルーニャ出身のジョセップ・トラベル(Josep Traver)という二人のギタリストと、アンドレアのデュオを中心に構成。一部でブラジルの巨匠チェリストのジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)が参加し彩りを加えている。
アンドレアがジョセップとのデュオ・アルバムの構想と、ジュランヂールとのオリジナル曲の制作という2つのプロジェクトを進めていたところ、マネージャーからこの2つを組み合わせ、2人のギタリストの才能も合わせれば良い作品ができるだろうと提案をされた結果として生まれた作品だという。主にアンドレア・モティスは歌による表現に専念しており、トランペットのソロは少ない。
冒頭はエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse, 1983 – 2011)の(1)「You Sent Me Flying」だ。ファンキーなギターと、感情豊かなアンドレア・モティスの歌。中間部のトランペットのソロは短いが、歌と同様に彼女のエイミー・ワインハウスに対するある種の共感と愛情が感じられる。
ブラジル音楽への愛情は、このアルバムの中核だ。特にシコ・ブアルキ(Chico Buarque, 1944 – )が関わった曲は3曲も取り上げられている。エドゥ・ロボ(Edu Lobo, 1943 – )作曲の(2)「Beatriz」、シコ・ブアルキ作詞作曲の(5)「O meu amor」、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim, 1927 – 1994)作曲の(12)「Retrato em branco e preto」は、いずれも今作で重要な位置付けの楽曲だ。
ブラジル音楽からはほかにもサンバ・カンサォンの古典(6)「Preconceito」、ジャヴァン(Djavan, 1949 – )の代表曲である(9)「Flor de Lis」、ギンガ(Guinga, 1950 – )の(13)「Senhorinha」などを収録。どの曲も原曲への彼女の愛を感じさせる、素晴らしい演奏と歌唱が印象的だ。
ほかに特筆すべきは、アンドレアと同世代の天才ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier, 1994 – )の(10)「Little Blue」や、ビル・ウィザース(Bill Withers, 1938 – 2020)の名曲(14)「Ain’t No Sunshine」だろうか。どれもシンプルな演奏だが、英米のフォークやR&Bに根差した懐の深さを感じさせる素晴らしい演奏。
(11)「Tan Tranquil·la」、(15)「Tudo É Ilusão」、(16)「Complicidad」の3曲はアンドレア・モティスとジュランヂール・ダ・シルヴァの共作によるオリジナル。ボサノヴァやジャズにインスパイアされた洗練された作風が素晴らしく、世界的な名曲ばかりを収めたこのアルバムの中でも遜色のない仕上がりとなっている。
Andrea Motis 略歴
アンドレア・モティスは1995年スペイン生まれ。7歳の頃からサン・アンドレウ音楽学校で学び、ベース奏者/音楽教育者ジョアン・チャモロ(Joan Chamorro)が主宰するジャズバンドには12歳から参加。すぐに同バンドのフロントに立つようになり、歌、トランペット、ときにはサックス奏者としても活躍。のちにリタ・パイエス(Rita Payes)やマガリ・ダッチラ(Magali Datzira)、エリア・バスティーダ(Elia Bastida)などを送り出した同バンドが輩出した最初の世界的スターとなった。
2017年に『Emotional Dance』、2019年には『もうひとつの青』などソロ作もリリース。日本ではブルーノート東京などで公演を行い人気に。近年は欧州を代表するビッグバンド「WDR Big Band」との共演作『Colors & Shadows』(2021年)など活躍の幅を広げている。
Andrea Motis – vocals, trumpet
Jurandir Da Silva – guitar, pandeiro
Josep Traver – guitar
Guest :
Jaques Morelenbaum – cello