“帝王”マイルス・デイヴィス、2019年の新譜『Rubberband』

MIles Davis - Rubberband

帝王は死なない

マイルス・デイヴィス(Miles Davis、1926年5月26日 – 1991年9月28日)が2019年9月、新譜『Rubberband』を発表した。

マイルス・デイヴィスは、“モダンジャズの帝王”と呼ばれたトランペッターだ。ジャズを聴かない人も、その名前くらいは聞いたことがあるだろう。

クール・ジャズ、ハード・バップ、エレクトリック・ジャズ、ヒップホップなど常に時代の音楽の最先端を駆けた彼は1991年に肺炎で入院。その治療による恐怖とパニックが心臓発作に繋がり1ヶ月間の昏睡状態のあと、意識が戻らないまま死んでしまった稀代の天才アーティストだ。

まもなく死後30年目を迎えようとするマイルス・デイヴィスが、新譜を発表した。

…何を言っているのかわからねーと思うが
俺も何を言われているのか分からなかった。

つまり、1991年に他界したジャズの帝王が、2019年に新作アルバムを発表したのである。

マイルス・デイヴィスの2019年作『Rubberband』の冒頭を飾る「Rubberband of Life」

マイルス・デイヴィス“新譜”は幻の未発表音源

種明かしをしよう。

この最高にクールな作品は、マイルス・デイヴィスが1985年に録音していながら、お蔵入りになっていたアルバムのゾンビだ。

1985年といえば、マイルス・デイヴィスの名作『You’re Under Arrest』が発表された年だ。“ジャズの帝王”はこのアルバムでポップスやR&Bのヒット曲──マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー(Human Nature)」、シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム(Time After Time)」、Dトレインの「Something’s On Your Mind」などを当時最先端のジャズのサウンドで提示してみせた。

1985年9月、彼はそれまで30年間所属していたコロンビア・レコードを離れ、新たに契約を交わしたワーナーブラザーズのアーティストとして初めてスタジオに入り、フランキー・ビバリー(Frankie Beverly)が率いるR&Bバンドに敬意を表して名付けられたトラック(6)「Maze」を録音。それから1か月後に(11)「Rubberband」を録音し、翌年1月に(9)「See I See」を録音した。

だがしかし、この録音は結果日の目を見ることはなかった。

直後に録音を開始し発表したアルバム『TUTU』はマイルス・デイヴィスのキャリアを代表する革新的な作品(その衝撃的なジャケットデザインを含め)となり、お蔵入りとなった『Rubberband』の音源はマニアの間で噂されるだけの存在となっていたのだ。

当時のプロデューサーたちが執念で完成させた『Rubberband』

1985年の幻のプロジェクト『Rubberband』のプロデュサーであったランディ・ホールとゼイン・ジャイルズ、そしてマイルスの甥、ヴィンス・ウィルバーン・ジュニアは、この幻の音源を現代に復活させる試みを2017年より始めていたようだ。

勿論、彼らは1985年の録音をそのまま2019年に発表するような愚かな真似はしなかった。(1)「Rubberband of Life」ではゲストシンガーとして1985年当時は13歳の少女であり、今やグラミー賞の常連であるレディシ(Ledisi)を迎え、マイルスが残した音源とMIX。ほかにもレイラ・ハサウェイ(Lalah Hathaway)など新たな録音も被せ、時代を超越するセッションを完成させた。

マイルス・デイヴィスの2019年の新作『Rubberband』のジャケットは、画家としての才能も知られていた彼が描いた作品がレイアウトされている。

MIles Davis - Rubberband
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