現代ジャズを象徴するバンド Kneebody、ベーシスト脱退の一大事を驚くべき発想で埋めた『Reach』│Musica Terra

現代ジャズを象徴するバンド Kneebody、ベーシスト脱退の一大事を驚くべき発想で埋めた『Reach』

Kneebody - Reach

Kneebody 2025年新譜『Reach』

四半世紀にわたるキャリアとなった米国の現代ジャズを代表するバンド、ニーバディ(Kneebody)が6年ぶりとなる新作『Reach』をリリースした。今作は2001年のバンド結成時から低音を支えたベーシストのカヴェ・ラステガー(Kaveh Rastegar)がブルース・スプリングスティーンやジョン・レジェンド、ブルーノ・マーズといった外部プロジェクトへの参加によって多忙を極めたことを理由に2023年にバンドを脱退して以降の初の作品となっており、ドラマーのネイト・ウッド(Nate Wood)がドラムスとベースを兼任するという割と非常識なカルテット編成での最初の録音となっている。

この新生カルテットの映像を観てしまえば、特別な事情がない限り、ほぼ全ての視聴者はベースギターを抱えながらドラムスを叩く男の存在に注目してしまうだろう。音楽界は野球界に比べれば“二刀流”プレイヤーはずっと多いが、大谷翔平ですらこなすことの不可能な“一人で同時に二役をこなす”ことを、ネイト・ウッドはクールな表情で体現している(彼は正当に、他のメンバーの倍のギャラを受け取れているのだろうか…?)。

(6)「Top Hat」

アルバムは2023年9月にブルックリンのFigure 8 Studiosで5日間にわたり録音された。
パンデミックによるプロジェクトの中断や、バンドメンバーの地理的な分散(ウェンデルとウッドはNYブルックリン、エンズリーはコロラド州デンバー、ベンジャミンはネバダ州リノ在住)といった課題を乗り越え、時間をかけて丁寧に制作された。

常に革新的な彼らだからこそ、バンドの屋台骨を支えるベーシストの脱退という一大事を、ある種の“チャンス”と捉えたのだろう。
「演奏をシンプルに、合理化し、より焦点を絞らなければならなかった。そして、僕はこの編成が気に入っている。こんなジャズは今まで聴いたことがなかったからだ」とネイト・ウッドは語る。「バンドがより弾力的になったと言うのが、おそらく一番適切な表現でしょう」とトランペットのシェーン・エンズリー(Shane Endsley)が付け加える。

キーボードのアダム・ベンジャミン(Adam Benjamin)が、左手でさりげなくベースの役割をカバーしていることはもっと注目されるべきだ。どうしてもネイト・ウッドの派手なパフォーマンスに目が行きがちだが、鍵盤奏者の役割はこのバンドの中で相当に大きい(ネイト・ウッドのギャラは1.5人分、アダム・ベンジャミンのギャラも1.5人分にしてほしい)。

(2)「Reach」

バンドの発起人であるカナダ出身のサックス奏者ベン・ウェンデル(Ben Wendel)をはじめ、それぞれのメンバーはもはや Kneebody の枠組みを遥かに超えたソロ・アーティストとしてその名を轟かせている。だが、多忙なスケジュールの中で彼らが再び集い、新しいアイディアを実現したことは大きな意味があるだろう。

「Kneebody は僕のアイデンティティの礎なんだ」とネイト・ウッドは言う。「19歳、まだ大学生だった頃から、このメンバーたちと演奏してきた。僕にとって、Kneebodyがあって、それ以外に全てがあるんだ」

(4)「Glimmer」

Kneebody 経歴

Kneebody は2001年に米国で結成されたジャズ・フュージョンバンド。メンバーはベン・ウェンデル(テナーサックス)、シェーン・エンズリー(トランペット)、アダム・ベンジャミン(キーボード)、ネイト・ウッド(ドラム)、カヴェ・ラステガー(ベース)で、ロサンゼルスの音楽シーンで出会い、ジャズ、ロック、エレクトロニカを融合した独自のサウンドを追求する。

2005年にデビューアルバム『Kneebody』をリリースし、複雑なリズムと即興性で注目を集める。2007年の『Low Electrical Worker』ではエレクトロニカの要素を強め、批評家から高い評価を得る。2013年の『The Line』は、より洗練された作曲とグルーヴで彼らの地位を確立。2015年の『Kneedelus』ではエレクトロニック・アーティストのダフトロンとコラボレーションし、ジャンルの境界をさらに広げる。さらに2017年の『Anti-Hero』、2019年の『Chapters』では現代ジャズの先駆者としての影響力を示した。

2023年にベースのカヴェ・ラステガーが脱退し、ネイト・ウッドがドラムとベースを兼任するカルテット編成に移行。2025年、6年ぶりのアルバム『Reach』をリリースし、軽やかで進化したサウンドで再び注目を集める。

ライヴでは独自のキューイングシステムを使い、即興性の高いパフォーマンスで知られる。グラミー賞ノミネート経験もあり、ダニー・マッキャスリンやマーク・ジュリアナらと並ぶ現代ジャズの革新者として評価されている。

Ben Wendel – tenor saxophone
Shane Endsley – trumpet
Adam Benjamin – keyboards
Nate Wood – drums, electric bass

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