超絶技巧のハンマーダルシマーに驚かされる、超個性的トリオ
アメリカのジャズトリオ、ハウス・オブ・ウォーターズ(House of Waters)はとてもユニークな存在だ。彼らの音楽を聴けば、まずその非常にきらびやかなサウンドに耳を奪われるだろう。
彼らは3人編成だが、特徴はなんといってもバンドメンバーのMax ZTが超絶技巧で演奏する楽器「ハンマーダルシマー」だ。
ハンマーダルシマー、正しくはハンマード・ダルシマー(Hammered dulcimer)は台形の共鳴箱に張られた多数の鉄弦を木製のハンマーで叩いて音を出す、ペルシャ(現在のイラン)発祥のサントゥールという打弦楽器が西方に伝わり発展した楽器だ。サントゥールから派生した同系の楽器としては他にハンガリーのツィンバロム、ドイツのハックブレット、中国の揚琴、朝鮮半島の洋琴、タイのキムなど世界各地に存在し、まとめてツィター属と分類されている。
“ハンマーダルシマーのジミヘン”の異名、マックスZT
Max ZT は“ハンマーダルシマーのジミ・ヘンドリックス”との異名も持つ超絶技巧の名手で、2005年にハンマーダルシマーの全米大会で優勝。これまでにラヴィ・シャンカール、カーシュ・カーレイ、ヴィクター・ウッテン、ジョン・ボン・ジョヴィ、ジミー・クリフといったジャンルを問わず著名アーティスト達と共演をしてきている。
かつてはセネガルのグリオ(吟遊詩人)に作曲技術を学び、インドのムンバイでは伝説的サントゥール奏者シヴクマール・シャルマ (Shivkumar Sharma)に師事している。
アイルランドで発展したハンマーダルシマー(現在ではアメリカ合衆国の方が奏者が多い)を、こうした多様なルーツに裏打ちされた高度な技術で演奏できる稀有な音楽家だ。
バンドを支えるベーシスト、モト・フクシマ
House of Waters を演奏面、作曲面の両方で支えているのがバンドリーダーの日本人ベース奏者、モト・フクシマ(Moto Fukushima)。
House of Waters の曲の大多数がバークリー音大卒でジャズや南米音楽の影響を受けた彼の作曲による。
モト・フクシマは6弦ベースで低音を支えるだけでなく、コード弾き、ベースソロなど多彩な表現力が魅力だ。
ハンマーダルシマーの音色は派手だが構造上制約も多い楽器で、多くの演奏家はその民俗音楽的な響きに縛られるが、その制約をおそらくは意識的に取り払ったモト・フクシマの作曲や演奏により、ハンマーダルシマーをバンドサウンドの中心に据えつつも民俗音楽性に縛られない強い訴求力をもつ音楽に拡張している。
NY現代ジャズの最も個性的なバンド
ドラムスのイグナシオ・リヴァス・ビクシオ(Ignacio Rivas-Bixio)はアルゼンチンの出身で、フクシマ同様にバークリー音楽大学卒。
このようにHouse of Waters というバンドは国籍も越え、ハンマーダルシマーという古楽器を用い、NYというジャズの進化の中心地でまったく新しい音楽を作り出しているとても興味深いバンドなのである。
彼らは2000年代後半にバンドを結成後、当初はストリートで演奏を開始した。NYの地下鉄の駅構内で許可を得て演奏しながらファンを集め、手売りでCDを2万枚も売ったというエピソードも残っている。これまでに数枚のアルバムを発表しているが、2019年作『Rising』では日本を代表するトランペット奏者の黒田卓也との共演も果たしている。
物珍しさだけではない確かな演奏技術と高い音楽性で、今後どのような活躍を見せてくれるのか楽しみだ。
House of Waters :
Max ZT – hammered dulcimer
Moto Fukushima – 6 string electric bass
Ignacio Rivas-Bixio – drums, percussion