R&Bのスターが放つ、刺激的なサウンドの新譜
カナダ出身のR&Bシンガー、ザ・ウィークエンド(The Weeknd, 本名:Abel Makkonen Tesfaye)の新譜『After Hours』が素晴らしい。正直これまでの彼の作品にはあまり惹かれるものはなく、ほぼ聴いていなかったのだが、今作はなぜかとても魅力的で繰り返し聴きたくなるのだ。
(1)「Alone Again」から、音作りの巧さが際立つ。特徴的なファルセットヴォイスには深いリヴァーブがかかる。普通これだけ深くかければ悪趣味なサウンドになりそうなものだが、彼の音楽にはそのいやらしさが全くない。
アメリカやイギリスがここ数十年で生み出してきた様々なジャンルに影響された楽曲群ももちろん良い((4)「Scared To Live」でのエルトン・ジョンの引用には驚いた)のだが、何よりも“サウンドの良さ”が際立つアルバムだ。
ヴォーカルはR&Bだが、本人も「R&Bの影響はヴォーカルだけ」と語っているように、楽曲にはロックやシンセポップからトリップ・ホップ、ダブステップ、さらにはアンビエントまで幅広い要素が含まれる。
このおそるべきアルバムは、新型のウイルスに怯えながら毎日を家で退屈な週末のように過ごす人々への最初の大きなプレゼントになるかもしれない。
エチオピア移民の家庭からトップスターへ。The Weeknd 波乱の半生
ザ・ウィークエンド(本名:エイベル・マッコネン・テスファイ)はエチオピアからカナダに1980年代後半に移民した両親のもと、1990年に生まれた。幼い頃に両親が離婚し、母親と祖母によって育てられたが、家庭ではエチオピアの言語アムハラ語が話されていたため、英語の習得にも苦労したという。ドラッグに手を出し穏やかではない10代だったが、20歳の頃に音楽プロデューサーのジェレミー・ローズ(Jeremy Rose)に出会い人生の転機が訪れる。
ジェレミー・ローズは彼の才能を見抜き、「What You Need」、「Loft Music」、「The Morning」という3曲を共同制作。2010年末にThe Weekndという名義の正体不明のアカウントからYouTubeに楽曲をアップすると、そのクオリティの高さがSNSなどを通じてたちまち話題に。2016年には7部門にノミネートされていたグラミー賞で「最優秀R&Bパフォーマンス」と「最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム」の2部門で受賞するなど、一気にR&Bシンガーとしてトップにまで登り詰めた。
ちなみに名前の「The Weeknd」はミススペルではない。この名前は17歳の頃に“とある週末(one weekend)”に家出したことに由来するようだが、デビュー当時カナダに既に「The Weekend」というバンドがいたため、商標の問題を回避するために綴りから「e」をとったようだ。