ウォルター・スミス3世、超強力クインテットでの新譜
ウォルター・スミス3世(Walter Smith III)の新譜『In Common 2』は、2018年の前作『In Common』の続編。
前作と同じくクインテット編成だが、テナーサックスのウォルター・スミス3世とギターのマシュー・スティーヴンス(Matthew Stevens)以外はメンバーチェンジ。ジョエル・ロス(Joel Ross, vib)、ハリシュ・ラガヴァン(Harish Raghavan, b)、マーカス・ギルモア(Marcus Gilmore, ds)が抜け、新たにミカ・トーマス(Micah Thomas, p)、リンダ・オー(Linda Oh, b)、ネイト・スミス(Nate Smith, ds)が加わっている。
抜けたメンバーも超豪華だが、それを補って余りあるメンバーが加わった形だ。現代ジャズシーンを追っている人なら、この編成だけで興味をそそられるに違いない。
しかしなぜか…ジャケが圧倒的にクソい
超凄いメンバーが集まっているのは嬉しいのだが…
今作には致命的な点がある。
圧倒的に、クソジャケなのである…。
…お分かりだろうか。。。
いくらなんでも、前作のジャケから交代になった3人の顔だけ下手くそなコラージュで差し替えるとか、いくらなんでも…酷すぎるでしょ…!笑
リンダ・オーとか顔と体で性別変わっちゃってるし…。
「ちょっと彩度を上げました。これによって見栄えが少し良くなっています」とか、そんなことはどうでもいいです…。
ほんとに、いったいどんな意図があってこのジャケットにしたんだろう…。
推察してみましょう。
以下は、なぜこの誰がどう見てもクソなジャケで音楽家の魂ともいうべき作品を全世界に向けてリリースするに至ったのかについての私なりの考察である。
- 新型コロナウイルス感染症の影響で、新しいメンバーで集まった写真が撮れなかった
- ジャケットという中身の音楽に一切関係ないものに対するコストを徹底的に省くことで、音楽に集中してもらいたかった
- 前作のメンバーからあえて頭だけを挿げ替えることでタイトルの”In Common(共通の)”が意味することも含め、哲学的な問いかけをしたかった
- 面白いジャケだろ?みんなSNSでシェアよろしく!
- ごめん手抜き
…私の予想では、5だ。
いくつか英語のレヴューサイトなども見てみたが、このクソジャケの理由については一切触れられていなかった。残念。
それでもやっぱり、音楽は素晴らしい
クソジャケについて思いを巡らせることはやめて、音楽に集中してみると、やはり今作は素晴らしいの一言だ。
(1)「Roy Allan」は2018年に惜しくも他界した革新的な功績を残したトランペッター、ロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove, 1968 – 2018)の曲で、この曲のみサックスとギターのデュオで演奏される。それ以外の曲は全てウォルター・スミス3世かマシュー・スティーヴンスによるオリジナル。曲はどれもモダンで、繊細な仕掛けが施されており聴き応えは抜群。
(2)「Lotto」はクインテットのギタリスト、マシュー・スティーヴンスによって書かれた曲。5人それぞれが他者の演奏に呼応し、次々とアドリブのフレーズを注ぎ込むスリリングな展開はさすがNYの現代ジャズシーンを代表するミュージシャンが集まったバンドという印象。
TVゲームを愛するウォルター・スミス3世らしく、本作にはゲームにインスパイアされた曲も多い。
ウォルター・スミス3世作曲の(5)「Van Der Linde」はシンコペーションする5/4拍子が特徴的な曲で、オープンワールド型ゲーム『レッド・デッド・リデンプション』へのオマージュだし、(4)「Clem」も『ウォーキング・デッド』の主要登場人物クレメンタインをタイトルに冠している。(8)「Little Lamplight」は『フォールアウト3』のゲームシナリオに触発された楽曲とのこと。
奴隷農場主であり、アメリカ合衆国の初代大統領の名を冠した(7)「General George Washington」は政治的な曲といえるだろう。彼はアメリカの英雄だが、黒人奴隷や先住民族・インディアンたちを人間扱いしていなかった。ここでは不安を煽るような2音で繰り返されるリフが印象的な楽曲が展開されている。
Walter Smith III – tenor saxophone
Matthew Stevens – guitar
Micah Thomas – piano
Linda May Han Oh – bass
Nate Smith – drums