さりげなく散りばめられた“ワールド・ミュージック”が魅力的なジャズギタートリオ新譜『Believers』

Brad Shepik - Believers

本物のワールドミュージックを知る3人によるギタートリオ作品

世界中の音楽をジャズの言語の中に落とし込み、これまでボーダーレスに活躍してきた3人のアメリカ人ミュージシャン──ギターのブラッド・シェピク(Brad Shepik)、ベースのサム・ミナイエ(Sam Minaie)、ドラムスのジョン・ハドフィールド(John Hadfield)がトリオを結成し創り上げたアルバムがこの『Believers』(2020年)。
たった3人のバンドだが、変拍子を多く含む複雑な楽曲の中でそれぞれが強烈に個性的な音を出しており、さりげなくポスプロにも手間が掛けられたサウンドはまさに絶品。ブラッド・シェピックは多重録音も駆使したギターシンセによる空間的な音も交えつつ、しっかりと地に足をついたギターソロを披露。音色を含めここまで聴き手を気持ちよくさせてくれるギタリストはなかなか他にいないのではないだろうか…。

収録曲はメンバーのオリジナルの他、ラルフ・タウナー(Ralph Towner)のカヴァー(4)「The Sigh」(5)「Waterwheel」、アルメニアの伝統曲をもとにした(8)「Mona Mona」(アルメニアのピアニスト、ティグラン・ハマシアンと長年活動を共にするベースのサム・ミナイエによるアレンジ)を収録。普通のジャズ・ギタートリオとは一線を画す、現代的なサウンドが洪水のように押し寄せる。

(6)「Reve Pour Louis」は今作中でももっともインド音楽色が強い楽曲で、ジョン・ハドフィールドのパーカッションを多用した演奏も楽しい。
アルバムの全体的に奇数系の変拍子も多く、エキゾチックな雰囲気が漂う。

(3)「Nomadic Days」の演奏動画。
アルバム収録バージョンとは異なる。

今作で他に特筆すべきは録音の素晴らしさも挙げたい。特にアコースティックベースの音の太さ、重さは素晴らしく、各曲のサム・ミナイエのベースソロなどはその音色だけでご飯3杯はいけそうだ。

ブラッド・シェピク、サム・ミナイエ、ジョン・ハドフィールド。凄腕メンバーが集結

ギターのブラッド・シェピク(Brad Shepik)は1966年ワシントン州生まれ。東欧や中東、インド音楽の影響も受けたギタリストで、ギター以外にはサズやタンブーラの演奏も残している。これまでにポール・モチアン(Paul Motian)やユーリ・ユナコフ(Yuri Yunakov)、イヴォ・パパゾフ(Ivo Papazov)といった著名音楽家と共演、PachoraParadox trio といったバンドでの活躍も知られている。

ベースのサム・ミナイエ(Sam Minaie)は1983年にネヴァダ州でイランの移民の家庭に生まれた。ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)やメロディ・ガルドー(Melody Gardot)、ヤロン・ヘルマン(Yaron Herman)のバンドメンバーとしても知られる。今作は一部を除きほぼ全編でダブルベース(コントラバス)を演奏しており、力強く弾かれる低音がとても魅力的だ。

ドラム/パーカッションのジョン・ハドフィールド(John Hadfield)もまた、ジャンルや国境を越えた多彩な活動で知られている。これまでの共演者はヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)、キナン・アズメ(Kinan Azmeh)、ペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)など。彼のドラムセットには伝統的なジャズドラムセットのほか、インド古典打楽器のカンジーラ、アフリカのカリンバ、自転車の車輪、金属片、ダクト管など多様な楽器が並んでいる。

同メンバーによるアルバム未収録曲の演奏動画。
プログレも消化したアグレッシヴなサウンドが気持ちいい。

Brad Shepik – guitar
Sam Minaie – bass
John Hadfield – drums, percussion

Brad Shepik - Believers
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