北欧ジャズを代表する3人によるポール・マッカートニー曲集
ウルフ・ワケニウス(Ulf Wakenius, g)、ラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson, b ,cello)、マグヌス・オストロム(Magnus Öström, ds)という強力トリオ編成の新譜『Taste of Honey』は、ポール・マッカートニーの名曲の数々を中心にカヴァーした注目作だ。
北欧ジャズを代表する3人によるポール・マッカートニー集というのはそのコンセプトだけで興味を駆り立てられるが、実際に聴いてみるとポールの曲が持つ繊細で瑞々しい感性はそのままに、北欧ジャズらしい透明感が加わった素晴らしい音楽に昇華されていると感じた。
表題曲(1)「Taste of Honey(蜜の味)」は1960年にジャズピアニスト/マルチ奏者のボビー・スコット(Bobby Scott)によって作曲・公開されたものだが、ビートルズはこの曲を『Please Please Me』(1963年)でカヴァー。リードヴォーカルをポールがとっていた。
(5)「Blackbird」ではラーシュ・ダニエルソンがチェロでふくよかにメロディーを演奏。ウルフ・ワケニウスのギターはボサノヴァのリズムも取り入れながら、美しく変化するコードやメロディーの中にあっても常に鳴り続けるG音という原曲の特徴を再現したりと、原曲への大きなリスペクトが感じられるアレンジだ。
(6)「Yes to You」はラーシュ・ダニエルソンの作曲で、ここではラーシュが弾く透明感のあるピアノと、ウルフ・ワケニウスのガットギターのデュオでポール・マッカートニーへの想いを捧げている(ラーシュ・ダニエルソンは(10)「Our Lives」でもピアノを弾いている)。
(7)「And I Love Her」はギターとベースの二重奏で、息を呑むような美しさ。
メキシコの作曲当時ティーンエイジャーだったコンスエロ・ベラスケス(Consuelo Velázquez)の名曲(11)「Bésame Mucho(ベサメ・ムーチョ)」の収録は意外だったが、これも古くからポール・マッカートニーが愛し演奏していたようだ。
(12)「Eleanor Rigby」はテーマ部でドローン音のように鳴らされるギターの1弦の開放弦が印象的なアレンジ。
e.s.t.の頃から変わらないトレードマークであるマグヌス・オストロムの16分で淡々と刻み続けるドラミングも良い味を出している。
ウルフ・ワケニウス 略歴
ウルフ・ワケニウス(Ulf Wakenius)は1958年スウェーデン生まれのギタリスト/作曲家で、1997年よりジャズピアノの巨匠オスカー・ピーターソン(Oscar Peterso)のカルテットでジョー・パス(Joe Pass)の後任としてギタリストを務めていたことで知られている。
アコースティック・ギター(フォークギター)、クラシックギター (ガットギター)、エレクトリックギターを自在に操り、歌心のある超絶技巧が魅力的。
パット・メセニー(Pat Metheny)もフェイヴァリット・ギタリストのひとりとして挙げるなど、現在のジャズシーンでも最も重要なギタリストだ。
Ulf Wakenius – guitar
Lars Danielsson – bass, cello, piano
Magnus Öström – drums