ブラジル新世代シンガー、アイルトン・モンタホヨス新譜『ジョアン・ジルベルトとボサノヴァの革命』
2015年、ブラジルの人気勝ち抜き歌番組で優勝し、以降MPBやボサノヴァなど日本でも馴染みの深いブラジル音楽を武器にその天性の歌声を披露し続けているペルナンブーコ州レシフェ出身の歌手、アイルトン・モンタホヨス(Ayrton Montarroyos)の2020年新譜『João Gilberto e a Revolução da Bossa Nova』はボサノヴァの神様ジョアン・ジルベルトが愛した古き良きサンバ歌曲集。
エジミウソン・カペルピ(Edmilson Capelupi)のバチーダを軸にしつつも現代的なアレンジを随所に加えたギター1本をバックに、アイルトンのとにかく美しいとしか表現しようのない素晴らしい声で静かに紡がれる名曲の数々。極上のひとときを過ごすための最高の音楽がここにある。
アルバムはブラジルの国民的作曲家アリ・バホーゾ(Ary Barroso)の「Pra Machucar Meu Coração(私の心を傷つけるために)」で幕を開ける。“恋人よ、僕たちの家庭が壊れて一年半になる”というどんな風に声をかけたらよいか分からなくなる歌詞と、美しい曲調を低音から高音まで渋く特徴的な美声で歌うアイルトン・モンタホヨスが強く心に響く。
(2)「Eu Vim da Bahia(バイーア生まれ)」はジルベルト・ジル作曲。ジョアン・ジルベルトの最高傑作『三月の水』に収録されている曲だ。
ほかにもジョアンが好んで歌っていた(6)「Rosa Morena(ホーザ・モレーナ)」や、A.C.ジョビン作曲のボサノヴァ誕生の曲(7)「Chega de Saudade(想いあふれて)」など名曲が目白押しの今作。
ちょっと残念なのは、7曲入りながらそれぞれが短く、17分ほどで終わってしまうところだろうか。アルバム全体でのリピート推奨だ。
本作はライヴ盤(Ao Vivo)だが、観客の拍手がない。
それもそのはず、これは新型コロナウイルスの影響で無観客のオンライン配信で行われたライヴを音源にしたものだからだ。
上に貼った映像を観てみると、ギタリストのエジミウソンはマスクをしている。
今ではニューノーマルになってしまった感もあるが、一年前には想像もできなかった異様な状況を実感してしまう…。
アイルトン・モンタホヨス 新世代の最注目シンガー
アイルトン・モンタホヨス(Ayrton Montarroyos)は1995年生まれ。
シコ・ブアルキ(Chico Buarque)の「Olhos nos Olhos」を歌うホームヴィデオを公開後、16歳でプロとしてデヴューを果たしている。
2015年にブラジルの歌番組『The Voice Brasil』に出場、圧倒的な歌唱力で見事優勝を勝ち取り一躍時の人となった。
2017年にアルバム『Ayrton Montarroyos』でデビュー。ジャジーなアレンジや新人とは思えない深みのある歌声で多くの人々を魅了した。
レパートリーはサンバ、ボサノヴァ、MPBの古い曲が特徴的で、これはレシフェのレコードレーベルRozenblitの元従業員であり、自宅に大量のレコードをコレクションしていた彼の祖母の影響が大きい。
追記:アイルトン・モンタホヨス、2020年8月にカルトーラ曲集をリリース
アイルトン・モンタホヨスは2020年8月21日、サンバの大御所カルトーラ(Cartola)の楽曲集『Cartola, do Samba ao Samba-Canção』をリリースした。
本作も7弦ギターのエジミウソン・カペルピとのデュオで、カルトーラの原曲が持つ雰囲気とはまた違った魅力に満ちた素晴らしい音楽に満ちている。