アフロ・フューチャー・ジャズの話題作
米国の作曲家/マルチ奏者/シンガーのジョージア・アン・マルドロウ(Georgia Anne Muldrow)のプロジェクト、Jyontiによる新譜『Mama, You Can Bet!』。バンドサウンドのようだが、完全に彼女たったひとりの驚くべき“ジャズバンド”である。
ジョージア・アン・マルドロウは5曲目でのサックス以外の全ての楽器、声をひとりで演奏し、特異な才能を見せつける。
アルバム全体としてジャズやファンク、アフリカ音楽、ネオソウルが渾然一体となったような、少しなまりのある独特のグルーヴに飲み込まれそうになる快作だ。感性、知性、あらゆる面で彼女の音楽的才能は衝撃的で、エリカ・バドゥやロバート・グラスパーからも絶賛されているという話にも納得。そのマルチすぎる楽器演奏技術にも感服させられるが、彼女の一番の武器はやはり天性の“声”だろう。
肉体から直接発せられる究極の楽器である“声”には、あらゆる感情が宿る。
そしてさらに、彼女自身が演奏する全ての楽器でのアンサンブル…
これほど内面的な音楽作品は他にはなかなかない。
常々思うが、自分が過去に演奏した音を再生しながら多重録音で新たに他の音を積み足していくという作業は、過去のリアルな“追体験”と現在進行形の“創造”の同時進行であり、不可逆であるはずの時間を遡る孤独かつ貴重な体験だ。再生と創造を繰り返したその果てに生まれたこの作品には、天才的な音楽家であるジョージア・アン・マルドロウの人生の圧縮された時間が詰まっている。
現代の知られざる最重要アーティスト
ジョージア・アン・マルドロウは1983年、米国ロサンゼルス生まれ。両親ともにセッション・ミュージシャンという音楽的に恵まれた環境で育ち、2006年に最初のアルバム『Olesi: Fragments of an Earth』をリリース。ラッパーのモス・デフ(Mos Def)は彼女をロバータ・フラックやニーナ・シモン、エラ・フィッツジェラルドとも比較し、“過小評価されているが、この時代でもっとも重要なアーティスト”だと評している。
凡人の理解を超越する彼女の圧倒的な才能の前では、旧友であり現代ジャズでもっとも注目される女性サックス奏者レイクシア・ベンジャミン(Lakecia Benjamin)の(5)「Ra’s Noise (Thukumbado)」でのゲスト参加すら、単なるお飾りにすぎない。
Georgia Anne Muldrow – all instrumentals, vocals
Lakecia Benjamin – saxophone (5)