イスラエルジャズ新星ニツァン・トリオ、中東エッセンス満載のデビュー作『Seeking the Color』

Nizan Trio - Seeking the Color

イスラエルジャズ新星Nizan Trio デビュー!

充実するイスラエルジャズ・シーンから、新星ピアノトリオ、ニツァン・トリオ(Nizan Trio)のデビュー作『Seeking the Color』が登場した。
西洋音楽とイスラエルの伝統音楽の要素が五分ずつ含まれ、さらに叙情から激情の間を感性の赴くままに行き来する展開が素晴らしく、デビュー作ながら既に“イスラエルジャズ”における近年の最重要作の一枚となりそうなアルバムだ。

メンバーはリーダーでピアノ奏者のヨナタン・ニツァン(Yonatan Nizan)、ベースのオズ・エヒエリ(Oz Yehiely)、そしてドラムスのダヴィド・ダグミ(David Dagmi)。結成は2017年。

アルバムはオリジナル曲が中心で、奇を衒わないがイスラエルの近年のジャズに特徴的な確かな個性とテクニックを兼ね備えた魅力的なサウンドを聴かせてくれる。
(1)「Asian Fantasy」ではイントロでは中国風の五音音階を軸にした旋律を聴かせるが、アドリブパートでは思いっきり中東特有のスケールが飛び出すなど、スリリングな演奏だ。(2)「Haperach Begani」、(3)「Night Diver」など、変拍子もありつつコード感もはっきりした聴きやすい曲が続き、訴求力は抜群。

エキゾチックな旋律が顔を覗かせる(1)「Asian Fantasy」のMV。
11拍子の高速シークエンスが印象的なオリジナル曲の(6)「Endless Mirror」

本作にはいくつかのカヴァー曲も収録されている。

(5)「Shir Ha’Emek(シール・ハエメク)」はダニエル・サンブルスキー(Daniel Samburski)が1934年頃のイスラエルの人々の生活を描いた映画『レハイーム・ハダシーム(新たな人生に)』のために作曲した曲で、イスラエルではとてもよく知られた曲。イスラエルの建国は1948年だから、映画の舞台はそれ以前の話だ。この素材をヨナタン・ニツァンはベースにメロディーを弾かせるなど、センチメンタルで詩情豊かなアレンジで蘇らせている。

イスラエルの(5)「Shir Ha’Emek」
タイトルは“平原の歌”を意味し、イスラエル建国前の時代を歌った曲だ。

(8)「Erev Shel Shoshanim」はイスラエルの作曲家ヨセル・ハダフ(Yosef Hadar)によって1950年代後半に作られた曲で様々な歌手によって歌われ、現在ではユダヤ人の結婚式の定番となっており、さらにはベリーダンスでもよく使われている曲だ。この曲でのヨナタン・ニザンのアドリブソロは本作中で最も中東感を感じさせるものになっている。

(8)「Erev Shel Shoshanim」の演奏動画。
“薔薇の夜”を意味するロマンティックな楽曲。

トリオのリーダーでピアニスト/作曲家のヨナタン・ニツァン(Yonatan Nizan)は幼少時からクラシックとジャズのピアノを習い、さらにイスラエル音楽、ロック、ポップス、アイルランド音楽など多くのジャンルに影響を受けてきた。2012年に現在と異なるメンバーで自身のトリオを結成。以来エルサレムのイスラエル音楽アカデミーのジャズ・アンサンブル・コンクールでの優勝や、イタリアのTIMの国際音楽コンクール決勝進出など国内外で活躍してきた。

ベーシストのオズ・エヒエリ(Oz Yehiely)はUKジャズの雄シャバカ・ハッチングスのバンド、Shabaka & The Ancestors のメンバーで南アフリカ出身のトランペッター、マンドゥラ・ムランゲーニ(Mandla Mlangeni)のバンドでも活躍。

ドラマーのダヴィド・ダグミ(David Dagmi)は以前当サイトでも紹介した“ホエール・ギター”の使い手、オフェル・ミズラヒのバンドでもその名を見かける。

Nizan Trio :
Yonatan Nizan – piano
Oz Yehiely – contrabass
David Dagmi – drums

Nizan Trio - Seeking the Color
最新情報をチェックしよう!