野性と洗練と併せ持つマロヤ・ジャズ。メディ・ジェルヴィルの音楽
マダガスカル島から東へ800km、絶海の孤島レユニオン島出身のピアニスト/シンガー・ソング・ライター、メディ・ジェルヴィル(Meddy Gerville)の2020年作『Mon Maloya』は、彼の持ち味であるレユニオンの伝統音楽マロヤと、洗練されたジャズが見事に融合した傑作だ。
日本でも一部で話題となった前作『Tropical Rain』も相当にエッジの効いた作品だったが、今作はそれと比べるとサウンドは幾分まろやかになっている。これは前作のベースがエレクトリック・ベース1本だったことに対し、今作はダブルベース(ウッドベース)の比重が増えていることが要因のように思える。ベーシストはマルティニーク出身のミシェル・アリーボ(Michel Alibo)。カリブジャズを弾かせれば右に出る者はいないほどの名奏者だ。
今作ではマロヤに特徴的なアフリカ音楽の影響を受けた独特の訛りのある複合的な三連符系のリズムはおそろしいほどの魅惑の香りを放つし、メディ・ジェルヴィルのキレの良いピアノも一層の鋭さを持って迫ってくる。そして何よりも故郷の音楽への愛に溢れたメディのヴォーカルが良い。アルバムの冒頭曲「Mon Maloya(私のマロヤ)」…。素敵すぎるタイトルではないか。
アルバムジャケットで彼が手に持つ楽器にも注目
今回は前作のようにランディ・ブレッカーやグェン・レのようなスーパースターこそ参加していないものの、肩肘張らずに素のままのマロヤ・ジャズとして楽しめる最高の作品だ。
今作のジャケットではメディ・ジェルヴィルはレユニオンの伝統楽器カヤンム(kayanm)を手にしている。
これは乾燥させたサトウキビの茎を平らに並べ、その中にジェキリティやカンナなどの種子を入れ、シェイカーのように鳴らす楽器で、マロヤには欠かせないもの。彼は前作『Tropical Rain』のジャケットではこのカヤンムを大事そうに抱えていたが、今回もピアノではなくカヤンムがアルバムの“顔”となっていることからも、彼の故郷の音楽への想いが伝わってくる。
メディ・ジェルヴィル(Meddy Gerville)は1974年、フランスの海外県レユニオンのサン=ピエール生まれ。
レユニオン島の伝統的な大衆音楽であるマロヤ(maloya)やセガ(sega)をベースにしたジャズのスタイルが特長で、デビュー以来クレオール・ジャズの担い手として活躍してきた。
Meddy Gerville – vocal, piano, keyboard, kayanm
Michel Alibo – double bass, electric bass, sati
Emmanuel Felicité – drums, percussions, sati
Guests:
Yohan Saartave – electric bass
Eric Longsworth – cello
Olivier Araste – voice