フィリップ・シーペック&ウォルター・ラング『Cathedral』
ドイツ・ミュンヘンの若きギタリスト、フィリップ・シーペック(Philipp Schiepek)と、同じくミュンヘンの大ベテラン・ピアニスト、ウォルター・ラング(Walter Lang)の初デュオ作『Cathedral』。33歳の歳の差の二人の素晴らしい音楽家による静かで美しい音楽の語らい。
アルバム収録曲はすべて二人によるオリジナルで、(5)「Pilgrimage」と(8)「Prelude to the World Is Upside Down」がフィリップ・シーペック作曲、他はすべてウォルター・ラングによる作曲。コロナ禍の中で作られた楽曲群には憂鬱や悲しみを感じさせるが、その中にも確かな希望が込められている。
今やドイツの若手ギタリストの中でもっとも有望株と目されているフィリップ・シーペックは、今作ではエレクトリック・ギターではなくクラシックギター(ガットギター)を演奏。フィリップ曰く、似ているようで形も奏法も全く異なるこの二つの楽器に精通することは、互いに影響を与え音楽をより豊かにするのだという。
アルバムはたった二人の演奏で派手さこそないが、静かに語らい合うような丁寧な音楽に心が安らぐ。
中東的な旋律が不思議な雰囲気を醸す(1)「Sumniran」、荘厳で力強い和音が印象的な(2)「Cathedral」、そしてアルバムのハイライトとなる(3)「Estrela Cadente」は“流れ星”を意味するタイトルの限りなく美しい曲。ピアノとナイロン弦のギターは滞りなく調和し、静かに悠久の時を紡いでゆく。
このような時代にあって決して希望を捨てずに生きようと励ますラストの3曲の流れ──(9)「The World Is Upside Down」、(10) 「Light at the End of the Tunnel」、(11)「The Encourager」──もとても素晴らしい。
プロフィール
ギタリストのフィリップ・シーペック(Philipp Schiepek)は1994年生まれ。最初にピアノとアコーディオンを学び、12歳でギターを手に取りロックやポップスを演奏していたが、すぐにクラシックやジャズの複雑さに惹かれヴュルツブルクとミュンヘンの音楽アカデミーでその両方を学んだ。
2019年に自身のカルテットを率いてデビュー作『Golem Dance』をリリース。2020 BMW Young Artist Jazz Award など数々の賞を受賞するなど、今ドイツで最も期待されるギタリストと見做されている。
ピアニストのウォルター・ラング(Walter Lang)は1961年生まれ。音楽家の家系に生まれたが、キース・ジャレットに触発されクラシックではなくジャズを学ぶために米国ボストンのバークリー音楽大学に渡っている。
ドイツの老舗レーベル、エンヤ・レコーズ(Enja Records)から多数アルバムをリリースしているほか、日本のアトリエ・サワノ(澤野工房)やドイツの名門ECMなどからも作品をリリース。抒情性豊かなピアノに定評があるが、2005年に結成したピアノトリオ、Trio ELF ではヒップホップやエレクトロニックを取り入れたり、ブラジル音楽の巨匠ミルトン・ナシメントを迎えた作品を作ったりとその探究心は尽きない。
Philipp Schiepek – guitar
Walter Lang – piano