地球の歴史のロマンを探究するクインテット
大西洋で遠く隔てられたアフリカ大陸の東沿岸と、南米大陸の西沿岸は地層や古生物などの分布が驚くほど似ている。その海岸線の形状も、パズルのようにぴったりと組み合わせられそうだ──。
海洋を渡り、地図を手にした中世の人類は、とても偶然とは思えないその現実にロマンを抱いてきた。古くは16世紀のフランドル人の地図製作者アブラハム・オルテリウス、そして16世紀から17世紀にかけて活躍したフランシス・ベーコンがこの不思議に言及した。
18〜19世紀のドイツの冒険家/地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルトは大西洋沿岸の地がかつてひとつに結ばれていたと主張し「大西洋は一種の巨大な河底として誕生した」との言説を残している。
この二つの大陸がどのようにして隔てられたのか、様々な言説が繰り出されたが、決定打は1915年にアルフレート・ヴェーゲナーが地質学・古生物学・古気候学などの資料を根拠にし著書の中で唱えた“大陸移動説”である。気象学を専門としていた彼の主張は発表当時は学会に受け入れられなかったが、彼の死後、1950年代以降にプレートテクトニクス理論が注目されるとともにヴェーゲナーの大陸移動説も再び脚光を浴び、現在の科学では彼が正しかったことが概ね認められている。
Rio = 河
フランス出身のピアニスト、フロリアン・ペリシエ(Florian Pellissier)が率いるクインテットの新譜のジャケットはシンプルだが、ここには人類のロマンが詰まっている。
タイトルの『Rio』はスペイン語やポルトガル語で「河」を指す。
河の両側にはアフリカ大陸と南米大陸が描かれている。
これは両大陸の文化的な共通点を探し出そうとする彼らの旅の象徴でもある。
タイトル曲である(1)「Rio」では大西洋の東側ブラジルでマルシャと呼ばれる行進曲のリズムを刻むピアノと、明らかにヨーロッパ的な概念に基づいた抒情的な物語性のある音が静かに、しかし興奮気味に発せられている。
安定していて不動のように思えるヨニ・ゼルニック(Yoni Zelnik)のベースの上で、クリストフ・パンザーニ(Christophe Panzani)のサックスとヨアン・ロスタロット(Yoann Loustalot)のトランペットが、音楽の調和と、左右に反発する磁力の中で揺れる。そしてアフリカ音楽から強く影響されるバンド、アカゲラ(Akagera)での活躍でも知られる、空間そのものを創り出すダヴィッド・ジョルジュレ(David Georgelet)のドラミングも素晴らしい。
今作ではゲストでブラジル系フランス人のアガテ・イラセマ(Agathe Iracema)が(4)「Between the Bars」で英語のヴォーカルを聴かせてくれる。
(6)「Jungle de Guyanne」はその名の通りブラジルと国境を接する南米のフランス領ギアナのジャングルをテーマにした楽曲。
(7)「Biches dans l’espace」は後半約2分強は唐突にシンセや電子楽器に切り替わる特異なアンサンブルとなっており、人類の好奇心を地球を飛び越えて宇宙へと向かわせる。
Florian Pellissier – piano
Yoni Zelnik – bass
David Georgelet – drums
Christophe Panzani – saxophone
Yoann Loustalot – trumpet
Guest :
Agathe Iracema – vocal (4)