ジャズの新しき女神、セレーネ・サン=エメ
ギリシャ神話の月の女神セレーネに因んで名付けられたベーシスト/ヴォーカリスト/作曲家セレーネ・サン=エメ(Sélène Saint-Aimé)は、伝統的なジャズとフリージャズ、さらに現代的な音楽の感性も持ち合わせたラテン語で「波の海」(月の海のひとつ)を意味するデビュー作『Mare Undarum』を2020年にリリースした。
西アフリカにルーツを持ち、カリブ海のフランス領マルティニークに生まれ育ったセレーネ・サン=エメ。
彼女の風貌はどことなく現代のベースヒロイン、エスペランサ・スポルティング(Esperanza Spalding)を思わせる。
現在はフランス・パリを拠点とし、世界的ベーシストのロン・カーター(Ron Carter)やロニー・プラキシコ(Lonnie Plaxico)、そしてサックス奏者でコンセプチュアリストのスティーヴ・コールマン(Steve Coleman)に師事したという。
収録された9曲は、彼女のオリジナルのほかにエイトル・ヴィラ・ロボスの(4)「Valsa-Choro」、スティーヴ・コールマンの(5)「The Rings of Neptune」、さらには古典のモデスト・ムソルグスキー(9)「Cum Mortuis In Lingua Mortua(展覧会の絵)」の再解釈も。
今作には素晴らしいアーティストが参加しているが、その中でも特にマルティニークより北に位置するフランス海外県グアドループ出身のドラマー/パーカッショニスト、ソニー・トルーペ(Sonny Troupé)の存在感は際立っている。彼が演奏する西インド諸島の伝統的な打楽器、カ(ka)やドラムスは洗練された室内楽アンサンブルで組み立てられた楽曲に生命の躍動を与える。
今作はセレーネ・サン=エメという新たな才能のほんのイントロデューシングに過ぎない。
彼女はこれから、まずはヨーロッパのジャズの中心地フランスで、驚くようなコラボレーションを見せてくれるだろう。
Sélène Saint-Aimé – double bass and vocals
Guillaume Latil – cello
Mathias Lévy – violin
Irving Acao – tenor saxophone
Hermon Mehari – trumpet
Sonny Troupé – ka, drums