ロシア出身、革新的鍵盤奏者スヴェトラーナ・マリンチェンコ『少女時代への手紙』

Svetlana Marinchenko - Letters to My Little Girl

ロシア出身ピアニスト、多国籍バンドでの驚くべきアルバム

ロシア出身のピアニスト、スヴェトラーナ・マリンチェンコ(Svetlana Marinchenko)がスロバキア出身のベーシスト、ピーター・クーデク(Peter Cudek)とイスラエル出身のドラマー、オフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya)とのトリオを軸に作り上げた、自らの少女時代へ宛てたアルバム『Letters to My Little Girl』。収録の9曲は全て彼女の作曲である。

要所でポストプロダクションでの音響処理も効果的に用いたり、モンゴル生まれのエンジ・エルクヘンバヤルEnji Erkhembayar)とスイス生まれのフィオナ・グロンド(Fiona Grond)の歌唱をフィーチュアしたりと旧来のピアノトリオジャズのフォーマットに囚われずに自由な発想が発揮された飛び抜けたクオリティの作品だ。

(1)「Bear Can Dance」は可愛らしいタイトルだが、彼女の中に眠るインナーチャイルドが11拍子のリズムに乗り覚醒する様子は驚くほどドラマティックだ。これは子ども特有の能力である限界のない想像力を大人の技術と知識で捉えた芸術として最高レベルにあるものと思う。ラスト約1分半でのオフリ・ネヘミヤのドラムソロも神が宿るようだ。

(1)「Bear Can Dance」のMV。
前半のみで途切れてしまうので、圧巻の続きはぜひ音源を聴いてほしい

(2)「Hide n Seek」。タイトルの“かくれんぼ”は世界共通の子どもに人気の遊びだ。
ここでは現代的な変拍子のコンポジションと古典的なフォービートでのソロが交互に繰り返され、終始スリリングな展開はまさに誰もが子ども時代に夢中になったその純粋な遊びを思い返させてくれる。

(3)「Letters to My Little Girl」にはナチュラルに洗練されたフィオナ・グロンドのヴォーカルが初めて登場。続く(4)「The Threads」ではエンジ・エルクヘンバヤルによる力強く野生的なヴォイスも登場し、少女時代をテーマにしたアルバムは思春期の激しい混乱を迎える。

(4)「The Threads」の後半部。

アルバムの後半でも、エキサイティングな演奏と細かい音響処理も印象的な(5)「Dive」、亡き友人に捧げられた(6)「Michael」、さらに前出の二人の対照的なヴォーカリストを擁した楽曲など多彩な表情を見せる。
不安定な精神と衝動を抱え、危なっかしくも力強く未来へと向かう多感な命を描いた素晴らしい作品であることは間違いない。

スヴェトラーナ・マリンチェンコ 略歴

スヴェトラーナ・マリンチェンコはロシアのモスクワ近郊の都市ラメンスコエに1989年に生まれ、ムソルグスキー音楽大学で学んだ。2015年頃からドイツのミュンヘンに拠点を移し、ジャズコンボ「SVETAMUZIKA」名義でプログレッシヴ・フュージョンなデビューアルバム『Present Simple』を制作(めちゃくちゃかっこいいです)。
2016年にミュンヘンで開催されたスタインウェイ・ジャズ・アワードで優勝し、2019年にKurt Maas JazzAwardを受賞。2020年にクラウドファンディングを立ち上げ本作を制作した。

スイス出身のフィオナ・グロンドをヴォーカルに迎えた(3)「Letters to My Little Girl」のスタジオ演奏。
(アルバム収録版とは編成が異なる)

Svetlana Marinchenko – piano
Peter Cudek – bass
Ofri Nehemya – drums
Fiona Grond – vocal (3, 9)
Enji Erkhembayar – vocal (4, 7)
Matthäus von Schlippe – effects (except 2)

Svetlana Marinchenko - Letters to My Little Girl
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