仏マルチ奏者カミーユ・トーヴノ、ジャズへの深い敬愛を現代的センスで表現した新譜

Camille Thouvenot - Crésistance

仏マルチ奏者カミーユ・トーヴノ、ピアノトリオ新譜

1989年フランス生まれのピアニスト/作曲家カミーユ・トーヴノ(Camille Thouvenot “Mettà”)のソロデビュー作『Crésistance』は、ジャズや音楽への深い愛、それを演奏を通じて表現する技術と才能が最大限に発揮された良盤だ。

フーリッシュ・スカ・ジャズ・オーケストラ(Foolish Ska Jazz Orchestra)のリーダーであり、同バンドではコントラバス奏者を務めるカミーユだが、今作ではジャズピアニストとしてトリオを率い、スタンダードやオリジナルを演奏。ジャズの先駆者への敬意を明確に表しつつ、今の時代性も反映した野心的な作品を仕上げてきた。

(5)「The Wrong Chord」はジャズの巨匠ハービー・ハンコックによる有名なエピソードが語られている。
あるコンサートで、マイルス・デイヴィスがトランペットを吹いている傍で、ハービー・ハンコックが誰の耳にも明らかに間違ったコードをピアノで弾いてしまった。しかしマイルスはそれに動じず、なんと次にはその誤ったコード(The Wrong Chord)に合わせたフレーズを即興で吹き、間違ったコードを瞬時に“正しい”ものに修正してしまったというものだ。
これはジャズという即興音楽の面白さを語るとともに、筋書きのない人生にも通じる教訓を含んだものとして、今も語り継がれている。
曲はそのままマイルス・デイヴィスが愛した(6)「On Green Dolphin Street」へと雪崩れ込んでいくのだが、この演出にはなかなか痺れるものがある。

続く(7)「Caravan」もジャズの歴史へのリスペクトを最大限に表現しつつ、現代的なアレンジが施された驚くべき仕上がりだ。伝統的なスウィング・ジャズのリズムもアヴァンギャルドな表現の中に飲み込み、常に先進的であることをひとつの命題とするジャズという音楽の在り方を見事に描き出す。トリオのドラマー、アンディ・バロン(Andy Barron)のソロも素晴らしい。

ジャズスタンダードの(7)「Caravan」
この映像はアルバム未収録の別バージョンで、この演奏も相当にスリリングだ。

ベーシスト、クリストフ・ランコンタン(Christophe Lincontang)の力強いベースに導かれるアーサー・シュワルツ作のスタンダード(10)「Alone Together」は、カミーユ・トーヴノの内に秘めた激情が噴き出すようなピアノソロも素晴らしい。

カミーユ・トーヴノ 略歴

カミーユ・トーヴノは音楽を愛する両親のもとに生まれ育った。父親はアマチュアのコントラバス奏者、のちにチェリスト。彼の母親は家にピアノを運んできた。幼少時はそんな両親や、近所に住む教育者でヴァイオリニストから様々なジャンルの音楽や、即興で音楽を奏でることの楽しさを教わったという(そのヴァイオリニストは、のちにカミーユのジャズピアノの“生徒”になった)。

11歳頃になるとカミーユは由緒ある音楽学校で本格的な音楽の勉強を開始。12、13歳の頃には最初のトリオ──のちにカルテットとなる──を結成し、あちこちで小さなコンサートを行うようになった。

その後も音楽を学び続けた彼は2015年にコントラバス奏者としてフーリッシュ・スカ・ジャズ・オーケストラ(Foolish Ska Jazz Orchestra)を結成。個性的なサウンドは特にラテンアメリカで人気を博している。

他にもオルガン奏者としてバンドに参加したりと近年のフランスのジャズ界では引っ張りだこだが、素晴らしいベーシストとドラマーを迎え入れたピアニスト/作編曲家としてのデビュー作である今作『Crésistance』は、間違いなく彼の輝かしいマイルストーンだ。

Camille Thouvenot – piano
Christophe Lincontang – contrebasse
Andy Barron – drums

Camille Thouvenot - Crésistance
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